京都ノートルダム女子大学人間文化学科

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堀勝博「新・にくきもの」

 
新・にくきもの
 

にくきもの。急ぎ家路に就かむとするに、にはかに残業(のこりわざ)出できて、本意ならで居残りたる、いとにくくむつかし。からうじてまかでたるに、電車さへ遅れたれば、夜更けて帰り着きにけるこそ、困じはつれ。料理に髪の毛、塵など入りて出されたる。また、靴の中に石の入りてころころとさはりたる。
 燃ゆる芥(ゴミ)出すべき日に燃えぬ芥出す人。また芥袋の口ゆるびて烏などの喰ひに喰ひて道に臭き生芥散らかり広ごりたる。
 満員電車にて足組む人、座席半人分空けて詰めざる人。電車の入口を塞ぎてそ知らぬ顔する人、出で入りにさはれるをなどか心づかぬ。また、優先座席に寝たるふりする若者。特急電車に乗りたるに、わが家の居間とまがへるにや、ののしりあめく人々、またその子どもを走(わし)りほたえさする、車外に一掃したき心地抑へがたく、にくしなどと言ふもおろかなり。
 買ひ物するに、桃や柿などの実に指押し当て、硬さを確かめむとする人、いみじうにくしと見ゆ。苺などはまいて。また、店の注文所・精算所などに人多く並びゐたるに、ためらひつつゆるりと注文し、もの言ひ、取り消し追ひ加へなどする人。己が列に並びゐたらば、いかばかりかはかごと言ふべからむ。
 衣服に香水うるさく染ませたる人、鼻も曲がりぬべき香、おのれは嗅がぬかとあさまし。また、喰ひ物屋にて注文したる膳やがて運ばれ来ていざ喰はむとするに、折しも喰ひ終はりたる隣の客、人無きがごとく煙草の烟むくむく吹かしそむる、いみじうけぶたうにくし。わが加齢(よはひ)臭きもうたてしとは思ふものから、こははたいかがはせむ。
 雨降りみ降らずみ垂れこめたる日、人込みたる所にて自開傘(ジャムプ傘)やにはに開く人。濡れたる傘の雫、周囲の人に飛び散るにつれなしづくるもにくし。畳める傘の先より水滴り落つるに気づかで、そを人の靴の上に垂れさする人。また、ごはごはさわさわとかしがましき音立てていつ終はるともなく袋に何やら物を出し入れする人。耳そばだてて物聴き入りたる時など、腹立たしきほどなり。
 笑ふ時、口の尻裂けむばかりに大口開きて喉の奥見せ、割れ鐘のごとき大声出して手など拍つ人。とりわけ麗しき乙女らは、笑ふ口を手で隠し、楚々と笑ひてむかし。さる礼(ゐや)なきわざをいづこにてまねびしや、教え広めたる者、にくきこと限りなし。

(堀勝博)

 
 
   
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