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岩崎れい先生 「絵本の向こうに世界が広がる」

 

絵本の向こうに世界が広がる

  第1回 文字を読み始めた子どもたちに
 

年少組くらいの子どもたちから徐々にひらがなに興味を持ち、読んだり書いたりすることのできる子も増えてきます。子どもは、2歳の頃に言語を認識すると言われていますから、ごく当然のことです。〈ことば〉がただの音ではなく、大切なコミュニケーションや表現の手段となることを理解したときから、子どもの世界は無限に広がっていきます。そして、ことばへの興味は、文字への興味、お話への興味、未知の世界への興味、とさまざまな方向に広がっていきます。でも、はじまりはいっしょでも、文字が読めることと本が読めることは、まったく別々のことです。 

「ぼ・く・は・か・み・の・ぼ・う・し・を・か・ぶ・り・あ・た・ら・し・い・ら・っ・ぱ・を・も・っ・て」

と読むことができても、それは文字を拾っているだけですから、文字を認識することにエネルギーを取られてしまうので、森の中で動物たちと散歩をしたり、ピクニックをしたりすることができません。この時期に、文字が読めるようになったからといって絵本を自分で読むことを求めると、せっかくなじみ始めた絵本の世界を楽しむという習慣を断ち切ってしまうことにもなりかねません。文字が読めることは大事なことですが、これはあくまでも手段に過ぎません。成長してから読書の楽しみをじゅうぶんに味わうことができるように、自分で読んでも内容を楽しめるようになるまで、本を読んであげる日々を毎日丁寧に紡いでいきたいと思っています。

最近、ますます幅広く絵本を楽しめるようになってきた我が家の息子ですが、1歳の頃から好きな絵本作家がいます。それは、バージニア・リー・バートンです。初めに親しんだのは、『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』です。  「わたしひとりなら、もっとはやくはしれるんだ。そうしたら、きっとみんながたちどまって、わたしをながめて―わたしだけをながめて、いうでしょう。『なんてきのきいたかわいいきかんしゃだろう!……』……」  と考えて、逃げ出したちゅうちゅうは、ふくろうの鳴き声が今にも聞こえてきそうな暗い夜の古い線路に迷い込み、そして、機関士のジムたちに助け出され、家に帰っていきます。これは、児童文学評論家の瀬田貞二言うところの〈行きて帰りし物語〉です。子どもたちは、小さな冒険に出かけるのが好きだが、その冒険を楽しめる条件は必ず最後には安心できる家に帰って来られることだというのです。

次に喜んだのは、ちゅうちゅうが好きなら、と知人から勧められた『はたらきもののじょせつしゃけいてぃー』です。けいてぃーは大雪が降って、すべての機能がすっかり止まってしまった町の中を「ちゃっ! ちゃっ! ちゃっ!」とひとり動いて、町の機能を回復させていきます。  「けいてぃーはもう、すこしくたびれていました。けれどもしごとをとちゅうでやめたりなんか、けっしてしません………やめるものですか。」  と仕事を最後までなしとげます。町が「すっぽり、まっしろいゆきのもうふのしたにかくれ」ていき、そして、またもとどおりの町の姿を取り戻していく描写はみごとなもの、さすが60年以上前に原作が出版された、ロングセラーの代表作です。

初めから家にあったにもかかわらず、少し遅れてマイブームを迎えたのが『ちいさいおうち』です。特に、馬から馬車へ、自転車から車へと変遷していく見返し部分を眺めるのが大好きです。話の中で好きなのは、次々と工事が行われ、地下鉄もつくられ、乗り物が増えていく場面です。大喜びする息子に、「ちいさいおうちは、こんな騒がしい人工的な町がいやだったんだけど」と心の中でつっこみながら読んでいます。

そして、舞台仕立ての珍しい絵本『せいめいのれきし』。太陽の誕生から始まる雄大な歴史の物語。恐竜や化石も登場しますので、じゅうぶんに楽しめます。最近、空のかなたに何があるのか興味津々の我が家の4歳児は、宇宙や海の絵にも熱心に見入っています。最後のほうに近づいてくると、やっと私たち人間が登場します。その頃になると彼の興味が急に薄れていくのがわかります。彼も人間だというのに! 人間の歴史なんて、宇宙の歴史に比べたら本当に短いものなのですね。

最後に『名馬キャリコ』。他のバートンの作品に比べると、知名度は低いほうといえるでしょう。最近、我が家でもやっと常連さんの仲間入りをしました。  「ところははるか、西部のサボテン州に、その名をキャリコとよぶ馬がおりました。みめ美(うるわ)しくはありませんが、あたまはめっぽうきれましたし、足のはやさは、とびきりでした。」  と始まります。コマ割り調の白黒の絵と歯切れのよいリズミカルな文章が特徴です。テンポのよい話の展開が、物語の楽しさを増しています。

絵本の世界は、意外に奥深いようです。今回は、バージニア・リー・バートンの絵本を何冊かご 紹介しました。他にも、こんな魅力的な絵本もありますよ、という情報をお待ちしています。

バージニア・リー・バートンの絵本
『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』(村岡花子訳 福音館書店 1961)
『はたらきもののじょせつしゃけいてぃー』(石井桃子訳 福音館書店 1978新版)
『ちいさいおうち』(石井桃子訳 岩波書店 1965)
『せいめいのれきし』(石井桃子訳 岩波書店 1964)
『名馬キャリコ』(瀬田貞二訳 岩波書店 1979)
『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』(石井桃子訳 童話館出版 1939)
『ちいさいケーブルカーのメーベル』(桂宥子 ・石井桃子訳 ペンギン社 1952)  他 

  (保育園保護者会通信に連載)

人間文化学科教員 岩崎れい

 

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