京都ノートルダム女子大学 大学院人間文化専攻

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論文梗概
 
川勝小耶加   「フラ・アンジェリコーサン・マルコ祭壇画を中心にして」
 

 私は卒業論文でフラ・アンジェリコの受胎告知画について検証したことから、彼の宗教画の神秘性を別の視点から研究したいと考え、『サン・マルコ祭壇画』を取り上げることにした。ルネッサンス期は、ビザンティン様式が支配的だった西洋絵画に現実的、三次元的な空間表現や人物の自然な感情表現がもたらされ、それによって宗教画が人間的、世俗的に変化していった時代でもあった。そんな中でフラ・アンジェリコがどのような表現を用いてキリスト教の神秘を表現したかに焦点を当て、同テーマを描いている画家たちの絵と比較した。今回は『サン・マルコ祭壇画』における主要画面と、彼のプレデッラである『聖コスマスと聖ダミアヌスの殉教』を中心に考察し、フラ・アンジェリコの「殉教画」を手掛かりに、彼の描く宗教画について検証した。
 宗教画の表現がより人間的に世俗的に変化していく中で、フラ・アンジェリコの作品は中世的な面を色濃く残している。フラ・アンジェリコ以外の画家は聖母子像をより人間的に描いた結果、描かれた聖母子が世俗的になり神秘性は低くなっていると考える。しかし、金地の背景や表情の硬さなど、中世的でありすぎることもまた、厳格すぎて人々に教義を伝える宗教画としては近づきがたい印象を与えるのである。フラ・アンジェリコの『リナイウォーリ三翼祭壇画』、『サン・マルコ祭壇画』の2つの祭壇画の聖母子は、神としての厳格な印象を残しつつも、ジョットの人間的な表現を絶妙に取り入れている。また、フラ・アンジェリコが他の画家と比べて遠近法の使い方は極めて巧みである。フラ・アンジェリコは教義を伝えるための手段として遠近法を駆使しているのである。世の中がより人間的に、三次元的に描こうとする中で、フラ・アンジェリコは、しかし、そういったことに執着せず、ただ純粋に教義のみを描くことに徹したのである。『リナイウォーリ祭壇画』ではまだ空間の構成が甘いが、『サン・マルコ祭壇画』の主要画面では背景と聖人たち、また聖コスマスと聖ダミアヌスの顔の向きを使って見事に聖母子を際立たせている。
 『サン・マルコ祭壇画』で重要なテーマとなるのは「殉教」であった。マエスタと同じように、殉教画も、宗教画にかこつけて若い男性の身体を描くという目的で描かれるようになり、世俗的になってきた。しかし、フラ・アンジェリコの『聖コスマスと聖ダミアヌスの殉教』には恍惚の表現も過剰に生々しいグロテスクさもない。背景の青空と対照的に無情に行われる処刑という構図を遠近法によって際立たせ、キリスト教徒として最後まで誇り高く生きた聖人の徳の高い行為を描いたのである。フラ・アンジェリコは純粋に殉教という教義をトマス・アクィナスが言うような「徳の最も高い行為」であると考え、それを伝えようとしたのである。
 注文主であるコジモ・デ・メディチの意向をうまく汲み取って、「パトロンの好みに仕上げる」という、ある意味世俗的であると思われるが、注文主の意向を汲み、さらにその絵画で教義を完璧に表現するということは、フラ・アンジェリコでなくてはできないといえる。彼は遠近法や三次元的な表現を使って人間味を出すことや、現実味を出すことはしなかったが、ひたすら静的な宗教的神秘を描き続けたのである。

 
 
 
 
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