京都ノートルダム女子大学 大学院人間文化専攻

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論文梗概
 
植田まり  「『アレクサンドロス大王物語』にみられる死生観」
 

 古代マケドニア王国の王であったアレクサンドロスの生涯は、生前から歴史と伝説とが混在する形で後世へと伝えられた。こうした傾向を飛躍させ、さらに幻想的かつ空想的要素を取り込んだものに、アレクサンドロス・ロマンスという伝奇物語群がある。16世紀までに24ヶ国語以上80種類以上誕生したと言われているアレクサンドロス・ロマンスは様々な観点から研究されてきた。ただ、従来の研究では、特定の宗教色を伴うアレクサンドロス・ロマンスに焦点が当てられていたり、主に文献学的見地から進められたりした研究が多く、個々の物語に関して、詳細に検証したものが少ない。そのため、本稿では数あるロマンスの1つである『アレクサンドロス大王物語』を研究対象とし、これをアレクサンドロスの伝記史料ではなく、虚構、即ち、「物語」として取り扱い、そこにみられる死生観を明らかにすることが本稿の目的である。ここで言う死生観とは死と生、あるいは生き方や死に方に関する考え方である。また、物語中の死生観は主人公であるアレクサンドロスを通して見られる。その際、『アレクサンドロス大王物語』中の一場面である「東方の不思議の国の探訪譚」を特に注視する。
 上記の目的に基づき、本稿では3章にわたって論を展開する。第1章ではアレクサンドロスに関する幾つかの関連史料を整理することにより、『アレクサンドロス大王物語』を研究していく上で必要な情報を提示する。第2章では『アレクサンドロス大王物語』の死生観を考察するための前段階として、『アレクサンドロス大王物語』中に登場する「予言」「不死への探求」「夢」をモチーフとして、個別に検証していく。そして、上記の検証内容に拠りながら、第3章で『アレクサンドロス大王物語』の死生観を考察する。まず、物語中の「予言」や「登場人物たちの死」に視点を置き、死生観の核と考えられる「運命」の存在を具体化する。次に、「東方の不思議の国の探訪譚」に焦点を当て、そこにみられるアレクサンドロスの行動には、何が意図されているのかを考察していく。そして、最後に、アレクサンドロスの死までの言動を追うことで、「東方の不思議の国の探訪譚」が彼にどのような影響を与えているのかを言及し、最終的な結論を提示する。
 結論としては、『アレクサンドロス大王物語』には大別して3つの生き方がアレクサンドロスを通して見られると考えられる。第1の生き方は運命に服従し、自身を死すべき存在であると絶えず認識しながら生きる生き方。第2の生き方は定めや運命に服従するのではなく、個人の欲望を尊重した生き方。第3は死よりも生を意識した生き方である。
 これらの生き方がどのような要素からみられるのかを順に述べていくと、まず、第1の生き方は物語中の予言やアレクサンドロスと関係の深い3人の人物の死にみられる。自身に告げられた予言や3人の人物の死によって、アレクサンドロスは自己を死すべき存在と自覚し、運命に定められた生涯を忠実に歩む。しかし、東方の不思議の国で、アレクサンドロスは人間の定めに逆らうかのように、天空飛翔や海底探訪、不死への探求を行なう。故に、第2の生き方は東方の不思議の国の探訪譚にみられる。そして、東方の不思議の国から帰還したアレクサンドロスは、定められた生涯を忠実に歩みながらも、今まで以上に死に囚われるが、第三者から死を忘却した生き方を教授される。ここにみられるのが第3の生き方である。
 筆者はこれらの生き方はそれぞれ独立したものではなく、列挙した順に、アレクサンドロス自身が様々な経験をした結果に、見出していったものと考えている。最終的に、物語の中で人間は第1の生き方をせざるを得ない。故に、人間の生涯は悲哀を帯びた様相を呈しているように見えるが、そこには有限的な生涯の中で、幾つかの制約を受けながらも、生に目を向けようとする人間の姿がアレクサンドロスに投影されていると考えられる。

 
 
 
 
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