京都ノートルダム女子大学 大学院人間文化専攻

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論文梗概
 
酒井美佳  「英国のベッドタイムストーリーと日本の読み聞かせに関する考察」 
 

 本論文の目的は、英国において子育ての一貫として伝統的に根づいている、就寝時に子どもにお話を聞かせるベッドタイムストーリーの習慣と、英国のベッドタイムストーリーの習慣とほぼ同じ位置づけにある日本の読み聞かせの現状に注目し、日本と英国の読書環境の違いや目的の違いを比較することで、日本の子どもの読書環境や親が置かれている現状を明らかにすることである。
 そこで、英国のベッドタイムストーリーの習慣が、近年減少にあるという事実と、日本、英国ともに行われている読書支援活動の目的に違いが見られる点から、2つの仮説をたてた。
 第1の仮説では、英国に伝統的な習慣として根付いているベッドタイムストーリーと日本で行われている読み聞かせの目的は、PISAショックや読書離れなどが懸念されている現代の社会背景の影響で大きく異なるのではないかと考え、日本においては教育的要素が強いのではないかと考えた。
 第2の仮説では、英国でベッドタイムストーリーの減少の要因の一つとしてあげられる父親の関与が少ないことに関して、伝統的に子育て=母親という価値観をもつ日本においても同じことが言えると考えられ、育児支援制度を含む労働環境の違いから日本は英国より読み聞かせにおける父親の関与は少ないのではないかと考えた。
 そこで、第1の仮説については、第T章でベッドタイムストーリーの目的の違いについて、文献を分析することによってベッドタイムストーリーの目的における日英の違いを明らかにした。第U章ではブックスタート運動をはじめとする公的機関で行われている支援活動における日本と英国の社会的背景の違いを分析し、そこから子育てにおける読み聞かせの役割の相違が生まれることを明らかにした。
 第V章では、子育ての違いや労働環境の違いなどに注目して子どもや親がおかれている状況を明らかにし、第2の仮説の検証を行った。  その結果、第1の仮説では、日本でも英国でも、現代の社会問題の影響を受けて、同じような目的を持って読み聞かせが行われていることが明らかになった。ブックスタートについては目的がかなり異なっていたが、読み聞かせに対する親の認識や読書支援の取り組みを見る限り、英国、日本ともに読書を教育とのつながりをもって支援活動をおこなっていることが検証できた。
 第2の仮説については、両親の子育て環境や、子どもをとりまく環境の違いについて英国と日本と比較したところ、英国では、親が子育てと仕事を両立するための支援が整っており、父親の子育てへの関与を促す支援が積極的に行われていることが明らかになった。よって、このように変化しつつある英国の社会において、ベッドタイムストーリーの減少の一因として父親の関与の少なさが考えられるという先行研究はあるものの、実際には子育てと就労を両立するための支援が整い、女性の就労が増加し、共働き世帯が増え、家事・育児が共有されている英国においては、むしろ関与は増加の傾向にあるのではないかという結論に至った。
 一方、日本ではまだまだ子育てと仕事就労の両立が困難であり、母親が子育てに縛られ、父親と子どもが十分に過ごす時間がOECD加盟国の中でも最も少なく、父親の関与の促進も一部では行われているものの、まだまだ浸透していないことがわかった。ただし日本の父親も子どもと過ごす時間がないことに問題意識を持っているものの、現実には子育てに関与できていないという事実も文献から明らかになった。特に、育児休暇の取得率の違いを比較したところ、両国の男女平等の捉え方や取り組みに違いがあることが明らかであり、日本の父親がなかなか十分な時間と余裕を持てない現実が浮き彫りとなった。この状態を変えるためには、日本の子育て環境を変えるためにはまずは雇用形態が変化しないことには何も変わらないということ、実際育児休暇のメリット、デメリットを考えると、日本で父親が育児休暇を取得することは、まだ不可能に近く、現代の日本では実現が困難な社会なのであると検証できた。
 本論文では、英国のベッドタイムストーリーの習慣と、日本の読み聞かせの現状に注目し、日本と英国の読書環境の違いや目的の違いを比較することで、日本の子どもの読書環境や親が置かれている現状を明らかにすることを目的として、日本と英国の目的が異なるのではないかということと、父親の関与が日本では少ないのではないかという2つの仮説を立てて検証を行ったが、日本と英国の違いを、家庭環境、公的機関による支援活動などの面から比較、分析することによって、目的の違いが識字率や女性の労働環境など社会の問題と深く関係のあることが明らかになった。
 また、日本において父親の関与が少ないという現状は、日本の伝統的な家族のかたちが今もなお影響しており、読み聞かせを行う以前に、父親が子どもと一緒に過ごす時間を確保すること自体が困難であるということがわかった。一方、子どもと過ごす時間が確保されている国は、男女平等の捉え方や取り組みにも違いがあることがわかり、家族環境を取り巻く社会の体制が整っていることと読み聞かせの関与の違いには深い関係があると結論付けることができた。

 
 
 
 
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