京都ノートルダム女子大学 大学院人間文化専攻

京都ノートルダム女子大学  | 本学TOP | 人間文化専攻TOP |
大学院人間文化専攻 Cross-Culutural Studies 大学院人間文化専攻 Cross-Culutural Studies
   
 

研究のページ > 修士論文

 
 
論文梗概
 
金智奈美   「ハムレットの聖家族像への憧憬」
 

 ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)の作品の中で『ハムレット』ほど、謎に満ちた作品はないかもしれない。シェイクスピアの劇のテーマを復讐だけに設定したのだとしたら、主人公ハムレットが劇の始めから抱えている問題は非常に多い。心の底から見下している叔父と、父を亡くして間もない母が再婚してしまう。恋人オフィーリアは彼女の父と兄から、これ以上ハムレットの相手をするなと説教されている。国は敵国ノルウェー王国との領土問題に揺れていて、軍事力の強化に慌しく動いている。息子として、恋人として、そしてデンマーク王国エルノシア城の王子として、ハムレットは多面的に問題を抱えているのだ。
 そんな彼の元に父の亡霊が現れ、彼が「息子として」抱える問題を更に拡充させる。まるでこれは、主人公ハムレットが劇を通して息子してもっとも悩むことを決定付けられているかのようである。こうしたことから、本論において『ハムレット』は家族を意識して書かれた作品ではないかと考える。そしてハムレットが理想とした家族形態はキリスト教の「聖家族」であったという仮説を立証することが本論のテーマである。
 本論では3章にわたって論を展開する。第1章ではハムレットの劇的トポスに注目し、劇において父を象徴する「煉獄」と母を象徴する「庭」について考察する。第2章では、本論の仮説であるハムレットの理想とする聖家族がどういった家族像なのかを見る。シェイクスピアが観劇した可能性もある聖史劇という伝統の中にある聖家族を見て、ハムレットの父と母に繋がる可能性のある特徴を掴む。第三章ではハムレットの父と母についてそれぞれ分析し、彼が求めた理想の家族がキリスト教の聖家族であるという根拠を見出す。
 本論の結論は、ハムレットが聖家族を理想としていたという論の中で、特に彼は母親ガートルードに対して聖家族の母マリアのような母親であることを求めていたのではないかと考えるものである。聖家族は性のイメージが払拭された父と母と子という神秘的な家族として認識されていた。ルネサンス時代のイタリアにおいては、聖家族を題する多数の美術作品が描かれている。筆者はイタリア・ルネサンスにおいて一大テーマであったキリスト教の聖家族が、シェイクスピアの生きた16世紀イングランドにおいても理想の家族として認識されていたと考える。
 ハムレットは堕落してしまった母のせいで性を憎悪するようになり、性から完全に隔離された家族である聖家族を理想としていたのではないだろうか。いずれにせよ、母ガートルードの有り様が『ハムレット』という作品において主人公の心に大きな影響を与えていることは否定できない。

 
 
 
 
BACK TOP HOME