京都ノートルダム女子大学 大学院人間文化専攻

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論文梗概
 
中村実代子   神代記「都牟羽之大刀」名義考
 

『古事記』には、名義未詳の語が多数あり、文字の異同もあるため、定説を立てにくいものが多い。本論文では、そのような語の中から、神代巻「八俣大蛇神話」に登場する「都牟羽之大刀」についての新たな解釈を行った。
第一章では、異同が多く見られる「都牟羽」の表記と訓に関して、写本本文を検討した。最古の写本である真福寺本などの伊勢本系写本では、表記が「都牟羽」で訓が「ツムハ」であり、兼永筆本などの卜部本系写本では、表記が「都牟」で訓が「ツルキ」、そして鼇頭古事記・『訂正古訓古事記』などの板本では、表記が「都牟刈」で訓が「ツムガリ」であった。現行諸注釈書においても、真福寺本を底本としているものは「都牟羽(ツムハ)」、『訂正古訓古事記』を底本としているものは「都牟刈(ツムガリ)」となっていた。ここでは、異同の少ない伊勢本の表記を採用し、「都牟之大刀」「都牟刈之大刀」は誤りであり、「都牟羽之大刀」が原表記であったと結論付けた。
第二章では、「都牟羽之大刀」「都牟刈之大刀」の解釈に関して論じた。『古事記箚記』『古事記頭書』では「ツルギノタチ」と同意のものであるとしていたが、『古事記伝』では、「都牟刈之大刀」と表記され、物を鋭く切り断つことのできる大刀であると解釈していた。また、後世の注釈書において、「都牟羽之大刀」である場合と「都牟刈之大刀」の場合とでは、全く違う解釈となっていた。『古事記伝』の成立以降、『訂正古訓古事記』を底本とし、『古事記伝』の解釈である「物を鋭く切り断つことのできる大刀」を採用している注釈書が多く見られ、今日までの通説として、広く用いられていたことがわかった。後に、真福寺本を底本とする注釈書が増えたが、「都牟羽」と表記する場合では、同一の解釈がなく、解釈者によって様々な解釈がなされていたことを明らかにした。
第三章では、「都牟羽之大刀」に関して、新たな解釈を考えた。まず、「都牟羽之大刀」における「ツムハ」の語構成は「ツム・ハ」で、「ハ(羽)」は「羽」の意味を持つものではなく、訓仮名表記であり、「刃」の意味であったとした。そして、「ツム」は「刃」の形容表現であったと考えた。「ツム」には、「ツムジ(旋風)」「ツムジ(旋毛)」「ツムクリ(独楽)」などの語例から、「巻く」「回転」の意があることが分かり、それに関連するものとして、名詞「ツム(紡錘)」に注目した。「ツム(紡錘)」が「円錐形」であることから、刃の形状と結びつけ、「都牟羽之大刀」は、「ツム(紡錘)」の形状の刃を持つ両刃の鉄剣であると考えた。
八俣大蛇神話の末尾において、草那芸之大刀の名称が美称として与えられたのに対し、「都牟羽之大刀」という名称は、特別な賛美の意味を持つ名ではなく、物理的形状を表したものにすぎないと考えた。上古において、両刃造りの剣が珍しいものであったということから、「都牟羽之大刀」は貴重なものであり、宝剣である「草那芸之大刀」の形状を表す言葉であったと位置付けて良いと考えた。

 
 
 
 
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