京都ノートルダム女子大学 大学院人間文化専攻

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論文梗概
 

山田 友香
「国内の公共図書館におけるLLブックの提供と課題
〜利用を支える出版と普及モデルの考察〜」

 

 本研究の目的は、障害の有無に拘らず全ての子どもが利用できる図書を公共図書館において普及させるための課題について、明らかにすることである。今回は検証の対象として、知的障害や発達障害のある読者を対象に制作されているLLブックを選択した。LLブックの「LL」とは、スウェーデン語の「Lattlast(読みやすい)」の略で、1960年以降に移民や知的障害者等、読むことへの困難を抱える読者に向けて出版されたのが始まりである。形態の特徴として、わかりやすい言葉や、写真、絵記号(ピクトグラム)等が使われていることが挙げられる。このLLブックを中心に、日本の公共図書館で提供するにあたって生じる課題と、その利用を支える出版の課題を明らかにした。

 現状として日本で出版されているLLブックは年に1〜2点で、スウェーデンが毎年30点程度出版しているのと比べると、圧倒的に点数が少ない。また出版社の参入事例が日本では少なく、大半が育英会や障害者団体、大学や行政等を発行元としている。そのため発行できる部数にも限りが生じ、絶版となった資料も3分の1存在する。点数、部数が十分ではなく、普及が進んでいない理由として本研究では2つの仮説を設けた。

 提供する資料に関する仮説:日本の児童書出版は、読者のニーズを考慮して内容やジャンルも幅広く設定し、発達段階に合わせた多様な構成が長年にわたって行われてきたことが原因で、LLブックのニーズが必要とされてこなかったのではないか。

 出版するコスト面に関する仮説:LLブックという形態を選択し、より良い作品を出版する場合、構成に対して専門的な視点を持つ編集者が複数人必要になる 。また、1点の出版に手間と時間を大幅に要することに対し、そのコストが回収できるかどうかも不明瞭であるため、出版点数が一向に増えないのではないか。

 上記2つの仮説の検証方法として、文献調査の他、全国47都道府県立図書館のLLブック所蔵調査、専門家(研究者、出版関係者、図書館職員)を対象としたインタビュー調査を行なった。

 結果として、提供する資料に関する仮説については、文献による調査を行ない、児童書の出版がLLブックの出版に影響をもたらしているという関係性はないことが明らかになった。全国47都道府県立図書館の所蔵調査を行なった結果、LLブックの所蔵点数には図書館によって大きな差があることが分かった。また、書庫に配架している例が多く、利用者のもとへ届ける配慮が十分ではないことも結果として得られた。さらに現段階では子ども向けのLLブック出版の事例が少なく、先行研究としても取り上げられていないことが判明した。

 出版するコスト面に関する仮説については、文献調査の他、専門家へのインタビュー調査によって課題の検証を行なった。そして制作するにあたって必要となる、分かりやすい文章や写真に編集する専門的技能を育てるため、人材の養成を行なうことが図書館にも出版社にも求められることが分かった。その他、いくつかの課題をもとに解決策となる2つの普及モデル(提供モデルと出版モデル)を提示した。

 今回提示した普及モデルの特徴は、新たに「LLブック研究専門機関」を設定したことである。日本では現在ほとんどのLLブックが市場に流通しておらず、公共図書館がまとまった資料の情報を必要としていても、資料情報が一括されて提供されていない。そのため情報の入手と購入に時間がかかることを考慮し、国内の全LLブック情報を収集・提供する役割を担う機関が必要であると考えて設定した。

 LLブックは図書館での提供にしても、出版事業としてもまだ新しい分野であり、課題が多数あることが明らかになった。しかし2016年4月に施行された障害者差別解消法が影響し、行政及び公共図書館では合理的配慮の提供が義務づけられている。その具体例として、「わかりやすい情報提供」やLLブックの資料提供も必要であると日本図書館協会は「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」の中で明記している。そのため今後はさらにこの分野の研究が発展すると考えられ、今回十分な検証が出来なかった部分は今後の課題としたい。

 
 
 
 
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