京都ノートルダム女子大学 大学院人間文化専攻

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論文梗概
 
久保美枝   バーン=ジョーンズによる『ピグマリオンと彫像』
 
 本稿は、イギリス近代の画家であるエドワード・バーン=ジョーンズによって制作された『ピグマリオンと彫像』を扱うことにより、ギリシャ神話を主題とした絵画でありながら、中世の騎士道愛が描かれていることを論じたものである。バーン=ジョーンズの中世への憧憬が、絵画においてどのように表現されているかについて考察したものである。その考察にあたり、『ピグマリオンと彫像』の人物像における憂鬱さと人物像の嵌め込まれた背景との関係から生じる装飾性に焦点を定めた。
  人物像の憂鬱さについては、まずギリシャの古典的身体を模した裸体像に官能性が抑制さていること、人物像の視線から汲み取れる憂鬱さが何によってもたらされたものかを考察することで、そこには身体的な欲求に対する禁欲があることを指摘した。そしてこの禁欲が騎士道における掟として現れることで、ギリシャ神話の愛が中世の騎士道愛へと読みかえられたところに、画家の中世世界に対する精神的な憧れがあると結論付けた。
 装飾性については、平面的な背景を考察することで人物像を主体とした絵画空間が構成されていないことを示した。このような空間構成が初期中世の写本挿絵にも見られることから、バーン=ジョーンズの絵画での人物像が可視的世界の人物として表現されていないことを導きだした。また面の組み合わせで構成された背景には、アイルランドの写本挿絵でも見られる空間を埋め尽くそうとする独特の造形感覚が見られることも例証した。ここにおいて、彼の絵画における装飾性を語るうえでの根拠があるとするものである。このような画面構成から結論付けられることは、『ピグマリオンと彫像』の絵画空間が現実世界に根ざしたものではなく、画家の観念的な美の世界の表出であるということである。
  可視的でない世界を表そうとする絵画空間とそこに織り込まれた中世の騎士道世界によって、観者はバーン=ジョーンズの憧れた中世の世界を一つの幻想として経験することができるのである。彼の絵画での中世への憧れは、具体的なものを表そうとするものではなく、騎士道と装飾的な空間によって中世世界をもはや実現されえない一つの夢と仕立て上げたところにある。
 
 
 
 
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