京都ノートルダム女子大学人間文化学科

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海外への研究訪問

朱鳳 准教授

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朱鳳 准教授

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海外への研究訪問

 

朱鳳 准教授 ―教員の研究活動紹介―

 
香港大学のモリソンコレクション訪問記
 

 2008年3月にマカオの学会に出席するため、香港に立ち寄った際、香港大学を訪れて、この大学に所蔵しているモリソンコレクションを見学してきた。
Robert Morrison (1782-1834)はロンドン伝道会(London Missionary Society)に所属しているイギリス人の宣教師である。1807年に最初のプロテスタント宣教師として中国に派遣されて、その後約25年中国で宣教師としてのみならず、言語学者、翻訳家、教育家としても大いに活躍し、聖書の全訳と英華字典の編纂と出版などの偉業を成し遂げた人物である。
  Memoirs of the Life and Labours of Robert Morrison(Eliza Morrison, London 1839)によると、モリソンは二冊の写本を携えて中国にやって来たという。この二冊の写本とは大英博物館に所蔵している『四史攸編』とローヤルソサイティに所蔵している中国語ラテン語辞書の写本である。
  矢沢利彦の研究によると、『四史攸編』はパリ外国宣教会に所属していたバッセ(Jean Basset,1662-1707)が翻訳した最初の漢訳聖書である(矢沢利彦「最初の漢訳聖書について」『近代中国研究センター彙報』、1967年7月)。『四史攸編』は福音書のマタイ伝、マルコ伝、ルカ伝とヨハネ伝の一部を中国語に翻訳し、まとめたものであるため、『四史攸編』という書名を与えられたと思われる。
  また中国語ラテン語辞書の写本はフラシスコ会に所属していたイタリア人宣教師ジェモーナ(Basile De Glemona, 1648-1704)によるものである。漢字の配列方法は(を)アルファベット順にしたため、長い間この辞書は当時のヨーロッパ人中国学者と宣教師に人気があり、多くの写本が作られたと言われている。ローヤルソサイティに所蔵している写本もそれらの一つである。
  上記の二冊の書物はともにカトリック宣教師が翻訳したあるいは編纂したものである。モリソンは先輩たちの仕事を受け継いで、二冊の写本を参考にして、聖書翻訳と華英字典の編纂に取り組んでいた。
  実はこの二冊の写本の現在の所在について、私は以前調査したことがある。Henri Cordier のBibliotheca Sinica(Paris Librairie Orientale & Americane,1905-1906)によると、この二冊の写本は香港のThe City Hall Library(香港大書楼) に所蔵されている。しかし、Cordierが言っているところの香港大書楼は1869年から1947年の間に存在していた博物館兼図書館であったが、現在は存在していない。また香港大書楼に所蔵していたモリソンの書物はその後香港大学に移され、モリソンコレクションとして大学図書館の貴重書物として大切に保管されていると判明したが、肝心の写本については、『四史攸編』はまだ残っているが、中国語ラテン語辞書に関しては現在行方不明である。
  私はロバート・モリソンの研究に専念して以来、イギリスのロンドン大学や、大英図書館、ハーバード大学などでモリソンに関する原典史料を多く読んできたが、モリソンが中国に来る前にイギリスにおいて、手書きで写した二冊の書物は未だに目にしたことがない。今回やっと念願が叶って、モリソンの写本の一つである『四史攸編』と対面することができた。まさに感無量であった。
  この写本は1805年に写されたものであったため、紙はすでに黄ばんでいて、ところどころ蠧(きくいむし)の跡が残っている。しかし200年以上の年月が経っているとはいえ、モリソンの手跡ははっきりと目に焼き付く。まだ中国語を習い立てのところであったので、漢字は少し幼く見えるが、漢字の左には英語訳、上にはその漢字の発音をローマ字で表記しており、丁寧に一文字ひともじ書かれている。ページをめくっていくと、後半になると、英訳と発音表記のない漢字のみのページや、明らかにモリソンではない筆跡のページもでてきた。おそらく中国へ赴任の日が近づき、写本を写す時間がなくなったため、急いで写したり、また中国人の手も借りたりして、何とか完成させたのだろう。Memoirs of the Life and Labours of Robert Morrisonにはモリソンの写本写しに彼の最初の中国人先生Yong-Sam-Takがお手伝いしていたと記述されているので、おそらくこの写本に残されているモリソン以外の筆跡はYong-Sam-Takのものであろう。
  香港大学の図書館で上記の写本以外モリソンが一生の心血を注いで翻訳と編纂した『神天聖書』(旧約聖書と新約聖書)21巻と華英字典6冊の初版本も拝見することができた。また貴重図書の特別室にモリソンが中国滞在中に蒐集した書物や、手紙がずらりと本棚に整列され、私たち研究者のひもとくのを待っているように感じざるをえない。これらのコレクションに関して、図書館に未出版のカタログ二冊があるが、残念ながら、時間の関係でゆっくり調べることができなかった。これからはまず二冊のカタログのコピーを入手し、モリソンコレクションの中身を究明した後、休みを利用してもう一度香港大学へ赴き、じっくりと書物の内容を調査し、モリソンの翻訳を言語活動に関する研究をさらに深めていきたい。
  去年はモリソン来華200周年にあたり、シンガポールの聖書公会ではこの
記念行事として、モリソンが翻訳した最初の中国語聖書全訳『神天聖書』21巻を100部復刻したというニュースも耳にしまたし、日本に戻ってから四方八方に手を尽くして探しているが、なにしろ発行部数が少ないので、未だに手に入ることができない。
  香港での滞在時間が短かっただが、収穫は多かった。今後のモリソン研究の飛躍に翼を与えてくれたと思う。

 
 
   
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