学長挨拶

平成29年度 第54回卒業式・第15回学位授与式 式辞                 平成30年3月10日


 

 卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。また今日までお嬢様方を見守り、支えてこられた保護者の皆様に、高いところからではございますが、心よりお祝いを申し上げます。そして、本日ご多用の中をここにご臨席頂きましたご来賓の皆様にも、大学を代表し、深く感謝の意を表す次第でございます。

 只今挙行されております京都ノートルダム女子大学第五十四回卒業式のこの瞬間は、私達の誰にとっても、その生涯で、たった一度の貴重なものです。しかし、私達は通常、時間が流れていくことを、当然の、改めて考えてみるまでもないこととして過ごしています。卒業されてゆく皆さんは、今、この大学で過ごした日々を振り返り、その間に与えられてきたご自分の成長に特別な感慨を持っておられるかもしれません。あるいは、これから経験する社会人としての日々に大きな希望や、少々の不安を抱いておられるかもしれません。そんな皆様に、改めて、ノートルダム教育修道女会によって始められた教育の中心をお話したいと思います。

 ご存知の通り、国公立の大学とは異なり、すべての私立大学には建学の精神というものがあります。もし今私がキャップアンドガウンをまとって座っている卒業生の皆さんに、私たちの場合この建学の精神を表す言葉が何であるかを尋ねるなら、直ちに「徳と知」という返事が返ってくることでしょう。ではもし、この「徳と知」が、具体的にどういうことを表すのかを質問したとしたら、すぐに答えるのには、皆さんかなりの困難を感じるのではないかと思います。

 本学は、2021年に創立60周年を迎えますが、今から7年前、創立50周年を祝った記念誌の最初のページには、この「徳と知」に続いて、「行動指針」として「ミッションコミットメント---私たちの決意」の四つの動詞が紹介されています。この四つの動詞は、優しい言葉で表現されていますが、それだけに、意外と深く心に留め、実践しようとすることが難しいかもしれません。しかし、この四つの動詞こそが、この混迷した21世紀を、終末時計の針を逆行させ、宇宙船地球号を、誰もが安心して一人一人のユニークな人生を送れる真の平和な世界へと造り替えるためのカギとなるものです。

 まず一つ目の動詞『尊ぶ』には、「人と自分、物と自然の全てに敬意をもって向き合う」という説明が続きます。皆さんどうでしょう。自分に対し敬意をもって向き合っていますか?「私にはそんな力はない、そんな苦しい思いをして、責任を引き受けたくない」といった誘惑にかられ、楽な道を選びたくなることがありますよね。私という人間に備えられている力を尊ぶことが出来れば、こんな考えは出てこないのでしょうが、一人自分のことしか目に入らず、自分の置かれている周囲の人々や状況に敬意をもって向き合わないならば、自分の行いは安易な方に流れていくでしょう。

 次に『対話する』は、「心をこめて聴き、かかわりから学び、真理を探究する。」と説明されています。授業中に私語をしていたり、スマホをいじっていた経験のある人は、その時クラスの邪魔者であったことに思い当たるでしょう。人はみな大体自分が正しいと思って安心しています。でも心をこめて聴くことによって、私達は、それまで思ってもいなかった新しい世界に開かれてゆきます。先生方とのかかわりを通して大学で学んだことは、この経験を豊かに持ったことになるはずです。卒論を仕上げた皆さんは、今、一つの真理探究の方法を手に入れ、社会でのさらに多様な対話から、それを磨いてゆくことになるでしょう。

 三つ目の動詞『共感する』は、「心を開き、人や時代の要請に敏感な感性を持つ。」と解説されていますが、これは英語でいうsympathy ではなくempathy のことだと言われます。他者の思いに同情するだけでなく、同じ思いになり、互いを大切にしあうのです。そして最後の動詞は、『行動する』で、「対話し、決断し、責任を持って人々の幸せと世界平和のために行動する」と説かれています。

 長々と、皆さんの手元にあるはずの栞の内容を繰り返してきましたが、ここに挙げた動詞を覚えていた人も、また忘れてしまった人も、どうかこれからの人生において、この四つの動詞を思い出し、体験を通して、その意味を自分のものとしていくよう努めてください。私自身、これが簡単なことではないと知っています。しかし、せっかく聖母マリアを記念する京都ノートルダム女子大学に学んだ皆さんは、世の中がどのように変わろうともこのミッションコミットメントによって、まっすぐに自分の人生を照らしてゆくことが出来るでしょう。

 少し身近な例を挙げてみましょう。皆さんも今年のオリンピックでメダリストとなった様々なアスリートを覚えていらっしゃることでしょう。それぞれに極限までのトレーニングを重ね、見事優勝された訳ですが、私には、特にスピードスケートの小平奈緒選手が強く印象に残りました。2位となり、涙を流して韓国の国旗を付けた棒を握りしめていたイ・サンファ選手に駆け寄り、肩を抱きながら言葉をかけ、二人で、それぞれの国旗を持ち、一緒にウィニングランをした姿は、まさに人を尊び、対話し、共感し、行動する姿でした。この二人の選手は、激しい競い合いをする立場にいながら、互いに相手を自宅に迎えあい、親友となっていることを知りました。小平選手が、「氷上の詩人」と呼ばれていることも私の心を打ちました。人として、此処まで深く広い精神を持つ小平選手は、その言葉に芸術性を帯びた表現者ともなるのだと納得したからです。

 私たちは、その人生において、様々な出来事にぶつかります。思いもかけない様な現実を前に、立ちすくむこともあります。これから社会人として出発する皆さんに、ミッションコミットメントと共に、ナチスの強制収容所から解放された精神科医フランクルが、解放された翌年にウィーンの市民大学で行った講演の中の言葉をプレゼントし、学長式辞としたいと思います。

 「生きるとは、問われていること、答えること ---自分自身の人生に責任を持つことである。… 生きることは、困難になればなるほど、意味あるものになる可能性があるということが明らかです。」

 本日は、誠におめでとうございました。

 平成30年3月10日
 京都ノートルダム女子大学
 学長 眞田 雅子

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