学長挨拶

平成30年度 入学式 式辞                          平成30年3月10日


 

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。そして、今日まで、お嬢様方を慈しみお育てになった、保護者の皆様にも、心からお祝いを申し上げます。また、ご来賓の方々には、お忙しい中ご臨席賜り、誠にありがとうございます。

 ここに、学部生311名、大学院生13名の入学を許可いたします。

 今日というこの美しい日に、京都ノートルダム女子大学にご入学になることは、新入生の皆さんにとって、特別な生き方を始められたことを意味します。私立大学には、それぞれ建学の精神というものがありますが、本学の場合、それは、日本語で「徳と知」と表わされます。ノートルダム小学校、中高で学ばれた方には、既におなじみのフレーズでしょうが、新たに大学生となった皆さんは、この言葉がご自分の生き方とどう関わるかを是非考えてみて頂きたいと思います。

 自分自身の在り方に照らして考えると、「徳」という言葉から連想される特別な精神修養や哲学、あるいは、「知」が表している科学的な知識や探求は、あまりに日常とかけ離れている、他人事のように響き、どうしたら到達できる目標なのか、途方に暮れるのではないかと思われます。そこで、学校法人ノートルダム女学院三校のメンバーによるノートルダム総合教育センターでは、2008年に、「ミッション・コミットメント---私たちの決意---」と題する小さな栞を発行しました。新入生の皆さんは、全員この栞を手にすることになります。

 そこには、この「徳と知」が、分かり易く、自分の在り方と比べることのできる、四つの動詞で示されています。それは、「尊ぶ」、「対話する」、「共感する」、「行動する」です。そしてすべては、この第一の動詞「尊ぶ」から始まります。「人と自分、物と自然の全てに敬意をもって向き合います」と説明が続いていますが、皆さんは、自分に対して敬意をもって向き合っていますか?

 皆さんは、それぞれの学問分野で訓練を受け、真理探究の道を歩むことになるのですが、それには、自分を尊び、その心にきちんと耳を傾け、疑問を自分の言葉で表現することが大事です。他人がどう思うかではなく、自分自身の考えを大切に、堂々と言葉にしていくことが出来るよう願っています。

 皆さんは、自校教育の「ノートルダム学」という時間に、建学の精神、ミッションコミットメントを深く学ぶことになりますが、それは、この混迷した21世紀の世界を、皆さん一人一人が平和な美しい世界へと造り替えてゆくためです。

 最近私は、「写真家沢田教一展―その視線の先に」を見る機会がありました。ベトナム戦争は、もう半世紀前のこととなり、21世紀を迎える際に、人々は、平和の世紀の到来を祝ったのでしたが、ご存知のように、現在も戦争により不安な日々を送る人々の広がりが大きくなっています。沢田教一さんは、日本で三人しかいない世界的に優れたジャーナリストに贈られるピューリッツア賞受賞者の一人で、ベトナム戦争の戦場で撮った「安全への逃避」という受賞作品で有名です。

 今日、此処で、この方のお話をするのは、その生きざまが、まさに私たちのミッション・コミットメントの内容を深く示しているように思われるからです。最近は、私たちは、スマホで気軽に写真を撮ることが出来ますが、写す人と写される人との関係によって、写真の質が違ってくることを皆さんは経験されていることでしょう。沢田さんの写真が優れているのは、どれも被写体に対する深い心が表れている為に、見るものを感動させる作品になっているからだと思います。受賞作品の川の中を逃れる親子たちを、沢田さんは、シャッターを切った後、助け上げ、ピューリッツア賞の受賞後、再び彼らを訪ねて賞金の一部を置いてきたという話は有名です。

 彼の被写体となったアメリカの兵士もベトナムの兵士も市民も皆、彼に尊ばれ、無言のうちにも祈りとも言うべき深い対話が行われ、相互理解が進み、そこに共同体が、たとえ一瞬でも生まれていたように思うのです。勿論彼の家庭は、サタ夫人との間に短くもお互いを大切にする特別なものであったことが知られています。カンボジアで34歳の若さで銃撃され亡くなった沢田氏は、米軍基地の隊長から護身用のライフルを持つように言われた時、「自分はジャーナリストだから銃を持たない。戦いをしないと決めた日本人だからなおさらだ」と答えたと伝えられています。

 本学には美しい聖堂があり、毎月ミサが行われます。この機会を、祈る体験学習の時として下さい。授業の合間にも、一人聖堂に入り、自分を尊ぶ時間を持つことをお勧めします。キリスト教会の暦では、この4月1日に復活祭を祝いました。聖堂には大きな十字架があり、そこに掛かっているキリスト像は、衣をまとった復活の姿です。

 そして、聖堂のあるユージニア館の3階は、色々な授業の行われる教室のある所でもありますが、そこの壁に、ミッション・コミットメントが書かれた額が掛けられています。通りすがりに足を止め、それを読む習慣をつけていただくこともお勧めしたいと思います。この京都ノートルダム女子大学に入学されたからこそ得られる人生の宝物を、たっぷりと身に着けてゆく四年間でありますようにお祈りいたします。

 最後に、沢田教一氏に影響を受けた多くの報道写真家の一人、長倉洋海氏の、なぜ戦場に向かうかという問いに対する答えをもって、私の式辞といたします。


  「人間の深いところにある思いや営み、根源を撮りたい。民族や言葉の壁をこえて、人間として共感を得られる写真になれば、見る人は遠くの親戚、家族のような気持になれると思う」

 改めて、ご入学おめでとうございました。

 平成30年4月3日
 京都ノートルダム女子大学
 学長 眞田 雅子

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