学長挨拶

2019年度入学式 式辞                                 2019年4月2日


 

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、本日京都ノートルダム女子大学にご入学になるお嬢様方を、慈しみの内にお育て下さいました保護者の皆様方にも、心よりのお祝いを申し上げます。さらに、ご来賓の方々には、お忙しい中、ご臨席を賜り、新入生の門出をご一緒にお祝いいただけますことを、深く感謝申し上げます。

ここに、学部生338名、大学院生14名の入学を許可します。

 皆様は、本日より、京都ノートルダム女子大学の一員としての生活を始められますが、これには、単にめでたく四年制の高等教育や、その上の大学院教育を受け始めるということに留まらない、特別な意味があります。日本の数ある高等教育機関の中で、この京都ノートルダム女子大学を選らばれたことは、皆様が、この一見混迷の極みであるように見える世界の中で、そこに確実な平和を作り出す道をお一人お一人が、独自のやり方で歩み始めたことを意味するからです。
 日本では、間もなく、皆様がご入学されたこの2019年に、新しい天皇が即位され、新元号の使用が始まりますが、現天皇は、先の昭和の時代の戦争がもたらした癒しがたい傷痕の修復と、様々な被災者の方々や、社会で置き去りにされた弱い立場の方々にお心を寄せて、憲法の下で規定されている、基本的人権を尊ぶ象徴天皇というお立場の意味をよくよくお考えになり、実行されてきました。これは、新しい天皇にも継承され、さらに深められてゆくことが明らかになっています。
 この平和を作り出す道への、独自の参画が、実は、本学の建学の精神であることを、皆様方には、今日、しっかりと心に刻んでいただきたいと考えております。ノートルダムの小、中高、で学ばれた方は、「徳と知」という建学の精神を表す言葉に親しんでこられたでしょう。人徳が備わり、知性に溢れた人間になるという目標は素晴らしいものです。では、その為に私たち一人一人はどうしたらよいでしょうか。2008年、学校法人ノートルダム女学院三校の代表からなるノートルダム総合教育センターでは、「ミッション・コミットメント―――私たちの決意―――」と題する栞を作成しました。これは、本学の学生、教職員、全体が、目指すべき指針です。日常の自分の姿と常に照らし合わせ、自分自身を成長させることのできる、四つの動詞によって構成されています。具体的には、「尊ぶ」、「対話する」「共感する」「行動する」の四つの言葉です。一見どれも易しそうに見えますが、実は、生涯をかけて自分を高めてゆく指針になる、大変濃い内容を持った言葉です。皆さんは、初年次教育として、自分の大学について学ぶ「ノートルダム学」という授業で、さらにこの内容について深めていきます。
 さて、本学における、学生生活の様々な側面を支援するオフィスが並んでいるソフィア館という建物の玄関に、二つの大きな写真が掛かっていることに気付かれた方はどのくらい居られるでしょうか?一つは、この大学設立母体であるノートルダム教育修道会を始められた、マザーテレサ・ゲルハルディンガーの横顔で、もう一つは、皆さんに、何時もにこやかに「やあ!」と呼び掛けておられる現教皇フランシスコの像です。皆さんが入学されたこの年の11月、実に38年ぶりの教皇来日が計画されています。フランシスコ教皇が、どれほど深く物事をとらえ、又どれほど素早く行動される方であるかを示す、一つのエピソードをご紹介します。
 皆さんは、「焼き場に立つ少年」という写真をご存知ですか?1945年広島と長崎に原爆が投下された直後から、その後の様子を詳しく写真に収める任務を負った、ジョー・オダネル隊員が撮影した一枚です。皇国少年として、前を見つめ、まっすぐ起立している彼が噛み締めた唇に、わずかに血がにじんでいます。そして、彼の背には、原爆で亡くなった赤子の弟が、オンブ紐で括りつけられています。この子の遺骸を荼毘に付すために、順番を待っている所を映した写真です。
 カトリック教会では、1月1日を「世界平和の日」と定めています。昨年、つまり2018年の元旦に向けて、教皇フランシスコは、この「焼き場に立つ少年」のカードを大量に作り、「戦争が生み出したもの」と題し、「幼い少年の悲しみは、ただ血がにじんだ唇をかみしめる仕草に表れている」という短い説明と、ご自身のフランシスコという署名を入れて、教会中に配られました。私たちの大学から一番近い高野教会のお御堂にもひっそりと置かれておりました。
 この写真に関しては、撮影者の、ジョー・オダネル氏についても、少しお話したく思います。NHKスペシャル2008年8月7日放映の「解かれた封印〜米軍カメラマンが見たNAGASAKI」という番組をご覧になった方は、既にご存知のことと思いますが、この少年にカメラを向けた当初、オダネル氏は、敵国日本への憎しみに燃え、原爆投下は当然正しいことであったと考えていました。しかし、この戦争終結の爆撃は、生き残った日本人にとって新たな苦しみの始まりだったことを目撃していきます。傷ついた人々を撮影している内に、日本人に持っていた憎しみが消え、憎しみから哀れみに変わっていったそうです。ご自身が、大量被爆による癌の苦しみの日々を送り、若き日に見た地獄の情景を、43年もトランクにしまっていた30枚の事実を伝える写真を、衆目に晒した時、彼は既に67歳になっていました。このジョーの回心をもたらしたのは、彼の息子タイグの力強い後押しでありました。
 70歳を過ぎて、ジョーはあの少年を探しに、何度も来日しましたが、ついに見つからないままでした。ジョー・オダネル氏は、85歳で、この世を去りましたが、その日は、長崎に原爆が投下された8月9日だったということです。オダネル氏の話をさせていただいたのは、彼の生涯が、まさにミッション・コミットメントを見事に生き抜いた姿と考えられるからです。「尊ぶ」べきものは命です。そしてご子息との「対話」を通して苦しみを共にする活動を始めたとき、「共感」が生まれました。それは、「世界平和」に向かっての「行動」が生まれた時でもありました。

皆様の本学での学びの日々が、このような、世界平和の作り手となっていくためのものであることを心より希望し、本日の式辞といたします。

本日は、ご入学、誠におめでとうございました。


 2019年4月2日
 京都ノートルダム女子大学
 学長 眞田 雅子

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