学長挨拶

2020年度卒業式 式辞                                  2021年3月13日


 

 

皆さん、ご卒業おめでとうございます。

皆さんは、本学が2学部体制に改まった最初の年度に入学されました。現代人間学部を卒業される皆さんは、学部の1期生になられます。 一方の国際言語文化学部を卒業される皆さんは、4年間の在籍期間のちょうど中間で学部名称が変わり、さらに国際日本文化学科の皆さんは、学科名称も変更になって、新たな学部、学科を卒業されることになります。 大学院を修了される方々を含め、まさに本学の変革の歩みと共に、学園生活を送られたわけですが、その最終年度で、世界を揺るがすCOVID-19によるパンデミックに襲われました。

新型コロナウィルスの災厄は、日本の社会で見過ごしてきたもの、というより努めて見ないようにしてきたものを見える化しました。 日本のIT対応への遅れや、大都市東京への一極集中の弊害、ケア労働の過酷さ困難性、などなど。これらはこの災厄が改革の契機になることを願うばかりですが、 そもそも本災厄のように、私たちの社会や生活環境を揺るがす巨大な外力がかかった場合、その影響をできるだけやわらげ、機能を何とか維持するような粘りある力が、日本の社会に大きく欠けていたことを実感しました。

辞書的な意味で「弾性」や「回復力」を表す「レジリエンス」(resilience)がキーワードとして浮上しています。私の専門である建築分野でも、 この3月で10年の節目を迎えた東日本大震災の被災経験から、これからの建築やまちづくりに必要な視点として、この「レジリエンス」に注目しています。 専門用語として最初に「レジリエンス」が使われたのは、生態学の分野であるといわれています。ある生態系が環境の変化を吸収して、 システムの構造を維持する能力を意味する用語として、使われ始めたということです。その後、防災、臨床心理、経済、社会など多くの分野に流用されるようになりました。この「レジリエンス」が日本の社会に欠けていたといえます。では一体、私たちの社会に求められる「レジリエンス」は、どのように生み出せるのでしょうか。

コロナ禍でその感染対策に難しいかじ取りを強いられた世界のリーダーのうち、ドイツやニュージーランド、フィンランド、 台湾などの女性リーダーの国が比較的順調で、国民からも支持されてきたことがよく指摘されています。科学を尊重しつつ、 命を守り抜くことを何より優先したメッセージを、国民に向けて発信し続けた点で評価されたのだといえます。ただし、このことは何も危機に瀕した際の1国のリーダーとして、女性の方が優れているということではないでしょう。 そうではなく、1国のリーダーとして、女性が選ばれるような国、あるいは女性や若者、マイノリティなど多様な人々がリーダーになれる社会であることが、強力な外力に柔軟に対応できることを示すものと、捉えるべきだと考えます。 社会の「レジリエンス」を生み出す原動力となるのは、この多様性の尊重であるといえるのではないでしょうか。コロナウィルス禍によって、多様性の価値を改めて認識したといえます。 多様性ある共生社会の構築を目指すことで、社会の「レジリエンス」を高めていかねばなりません。

一方、社会全体の「レジリエンス」とともに、個人の「レジリエンス」も大事なのではないでしょうか。

その著書「LIFE SHIFT」で、日本社会に"人生100年時代"という言葉を定着させた、イギリスの社会・経済学者 リンダ・グラットンが、コロナ後の世界を予測するインタビューにおいて、 これからの人生を切り開くうえで、個人に求められる力について述べています。彼女が主張する個人に求められる力とは、 「困難や逆境にあっても心が折れずに柔軟に生き延びる力」というものです。これはまさに「レジリエンス」を意味しているといえます。そしてその力はどのようなものかというと、 個人の健康、身につけたスキル、家族や周囲の人々との関係性、これらの3つが総合したものだと説明しています。

健康管理や人との関係づくりは、日常の心がけや生活態度の課題といえるでしょう。身につけたスキル、 こちらは生涯にわたって自分が思い描く人生を送るために必要な、能力や技術、知識、資格などのことを指すと考えられます 。当然身につけるためには学ばないといけません。何を学ぶかは、人によって違います。何を学んだらよいかが重要ではなく、自分から学ぼうという気持ちと、学び続ける姿勢が重要になるでしょう。

皆さんは、ここ、京都ノートルダム女子大学で、それぞれの学科の専門性を身につけ、また大学院ではその専門性を深めるとともに、学園で出会った先生や職員、同級生などとの関わりから人間性を高めて、 社会に出ていかれるわけですが、これからも、自分の健康と人との関係を大切にしながら、本学で学んだことをベースにして、絶え間ない学びの姿勢で、知識や技術を磨き、「レジリエンス」を獲得していっていただきたいと思います。 そして多様性ある共生社会の構築に貢献していってください。心から応援しています。皆さんのご健闘をお祈りして、学長式辞といたします。




 2021年3月13日
 京都ノートルダム女子大学
 学長 中村 久美

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