問題提起「JHLの枠組みと課題-JSL/JFLとどう違うか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中島 和子

(名古屋外国語大学)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2003 NAKAJIMA

 

母語・継承語・バイリンガル教育研究会


 

問題提起「JHLの枠組みと課題-JSL/JFLとどう違うか」

 

中島 和子

(名古屋外国語大学)

 

1. 母語と継承語[i]

 まず母語とは何かという問題であるが、ここでは「初めて覚えたことばで、今でも使えることば」として論を進めたい[ii]。言語形成期の途中で国を越えての移動を余儀なくされた子どもの母語は何だろうか。確かに初めて覚えたことばは親の母語であるが、学齢期になって現地の学校に通い始めると、現地のことばの方が「強いことば」、母語が「弱いことば」になっていく。この過程で母語を自ら捨て、親が母語で話しかけても頑として現地語でしか反応しなくなる子どももいる。つまり、生活言語が母語から現地語へ置換(シフト)するのである。このようになった子どもの親のことばとは一体何なのだろうか。子どもの母語と呼ぶにはあまりにも弱いし、かと言って親のことばであるから外国語になってしまうわけではない。また同時に、現地語がネーティブのように流暢に話せるようになったからといって現地語を母語と呼ぶにはあまりにも根が浅い。このように、異言語環境で言語形成期の一部を過ごす子どものことばは母語と外国語に分けることは難しく、むしろ「継承語」と「現地語」という概念でくくる方がぴったりする。つまり、「継承語」とは親から受け継いだことば、「現地語」は子どもの育つ環境で毎日使うことばである。もちろん継承語も現地語も一つとは限らない。国際結婚の家庭などでは、父親の母語と母親の母語、つまり二つの継承語を持つことになるし、多言語環境であれば複数の現地語を使って生活することになる。

 

2. 継承語の特徴三つ

 継承語が外国語と異なる点を三つ指摘すると、次のようである(Isajiw,1984)

(1)   母語を継承することに対する価値付けが文化集団によって異なること。例えば、フランス系カナダ人にとって、フランス語を失うということは自らの文化を失うに等しく、言語の伝承に対するこだわりは非常に強い。一方ユダヤ系カナダ人となると、言語に関してはかなり寛容、同族結婚や自らの宗教に対しては異常なまでの執着を示すというように、文化保持において言語の占める位置づけが異なる。日本人の場合はどうだろうか。どちらかと言うと「長いものに巻かれろ」という状況順応型に属するように思われる。

(2)   継承語育成に成功するかどうかは、言語集団間の力関係によるところが大きい。国際語として猛威を奮う米国で日本語のような少数言語を保持伸長させることは難しいが、日本語の有用性が認められている地域では、日本語を保持すると同時に現地語も習得することはそんなに難しいことではない。国内の外国籍の子どもの場合でも、英語を母語とする子どもは、英語力に対する一般日本人の価値付けが高いため保持がより楽であるが、日本人が有用性を認めない少数言語となると日本語への置換が早くなる。

(3)   世代を経るにつれて2言語の意味論的棲み分けが起こる。1世は現地語が不得手なため継承語ですべての意味の構築をするのが普通、2世になると、継承語と現地語の二つを使い分ける。家庭内コミュニケーションは継承語、家庭外は現地語というバイリンガル型になる。3世になると、現地語が生活のあらゆる面で中心的役割をするようになる。つまり、継承語が生活上の機能を失い、少数言語集団のシンボル的役割になる。日本語の場合は、例えば、正月、お香典、お盆などの文化的語彙が伝統的行事とともに保持される。

3. 継承語教育の課題

 上のような特徴から、外国語としての日本語教育 (Japanese as a foreign language, JFL) や第2言語としての日本語教育(Japanese as a second language, JSL)[iii]と比較して、継承語としての日本語教育の課題を6つ指摘したい。

 

3.1. マイナスの価値付け

言語集団間の力関係で、継承語は常に弱者に立たされるため、主要言語との社会的格差が大きければ大きいほど、学習者が継承語に対してマイナスの価値付けをする。子どもは周囲の人々が継承語に対してどのような価値観を持っているかということに敏感である(Wong Fillmore, 1991)。したがって、継承語に対する一般社会の評価が低い場合は、その評価を内面化し、自らも継承語に対してマイナスの価値付けをするようになり、すでに習得したことばを自ら捨てていくという結果になりかねない。継承語教育の課題の一つは、学習者にいかに学習の価値を見出せるようにするか、ということである。

 

3.2. 親のチョイス

学校教育の中での外国語学習は学習者のチョイスであることが多いが、継承語の場合は、親のチョイスで始まる。親が子どもにどうしても習わせたいことばなのである。子どもにとっては押し付けられた学習であることが多いため、実際の授業では、学習意欲を持っていない子どもにどう前向きの姿勢で取り組ませるかが課題になり、教える側に技能や工夫が必要となる。また親との深い関わりがあることばであるということから、親の熱意が不可欠である。しかし、親が母語話者であるということは、低学年の子どもにはプラス要因であるが、高学年の子どもには、心理的にプレッシャーになり、継承語離れを促進する要因にもなりかねない。

 

3.3. 課外学習

継承語プログラムは、移住者団体、企業団体、宗教団体などが運営母体になることが多く、少数言語コミュニティーとの関わりの中での学習となる。また学習の場もコミュニティーセンター、教会、移住者協会などで、課外で教員免許を持たない教師が教えるのが普通である。課外であっても、子どもに継続的に学習するように仕向けるにはいろいろの工夫が必要である。例えば、カナダのブリティッシュコロンビア州では、子どものときから課外で継承日本語を継続して学習してきた高校生に、州政府の日本語標準テストを受ける機会を提供し、パスすれば高校の外国語の単位がもられるという制度を導入している。

 

3.4. アンバランスな語学力

外国語教育では4技能がバランスよく伸びるように工夫をするが、家庭使用をベースとした継承語は、アンバランスである。聞く力が最も発達するが、聞く力に対して話す力が極度に低い。が、それよりさらに弱いのが読み書きである。つまり、対話面の力は家庭使用でなんとか発達しても、認知力を必要とする言語面(高度な内容の会話力や読み書きの力)の発達が遅れるのである(中島1988ab)。継承語補強のプログラムがない自然放置の場合は、小学校低学年で移動した子どもの読み書きはすぐに後退する(中島・ヌネス2001ac)。したがって継承語教育の課題は、語学力のアンバランスをどうバランスの取れたものにしていくかということである。

 

3.5. 認知面は4年遅れ

継承学習者の認知面の力は、年齢相応の母語話者に比べて4年遅れと言われる。例えば、カナダ・トロントの日系高校生の調査(31名)では、週末一回2時間半、10年間通った場合、大半が対話面の会話力は非常に流暢、日本語で30分の面接に十分耐える力があったが、読解力と作文テストの結果は、大体小学校4年レベルであった(中島1988ab)。また同じトロント市のポルトガル系カナダ人の調査(中学1年生191名)でも、会話力と読む力(文法力を含む)に大きなギャップがあり、ボルトガルのアゾレアの母語話者(小学校6年生69名)と比べて認知面の力が大体4年遅れであったという(Cummins, 1991b)。また最近同じくトロントで日系小・中学生を対象に調査した漢字力テストでも、使用漢字が大体2年生どまり、読み漢字は4年どまりであった(中島2002)。

 

3.6. 世代その他によって異なる教育内容

継承語教育と言ってもその教育的内容や方法は、子どもの置かれている状況によって異なる。すでに読み書きができるようになって学齢期の途中で移動した場合は、母語保持教育が可能であるが、まだ読めない子どもの場合は継承語リテラシーの育成、現地生まれの2世児になると会話力の育成が必要になる。3世、4世以降には、JFLと同じように学校教育の中での学習が必要である。世代ばかりでなく、先住か、定住か、新来かによっても教育内容が異なる。在日韓国・朝鮮人の4世、5世のような定住グループの場合は、継承文化存続のため唯一有効だと考えられるのがパネル4(湯川)で取り上げた、学校教育機関の中に組み込まれたイマージョン教育である。

 

4. 継承語教育の教育的意義

 継承語教育は、対象言語が親のことばであるがゆえに、外国語のように距離をおいた見方ができない。楽しかったこと、悲しかったこと、様々な思いが裏づけされたことばである。また親のことばであるから、子どもができるのは当たり前、忘れると親も子も傷付くという性質を持っている。そのため継承語が生活上の機能を失っても、継承語を伝承すべきであるという責任感だけは何世代も続くと言われる。そしてそれを怠ると、一生悔いが残るという(Kouritzin, 1999)。特に親が現地語に堪能ではない場合は、親子のコミュニケーションとして必要不可欠なことばである。つまり、子どもの情緒安定、アイデンティティの形成(Oketani,1997)に深く関わる言語教育であるから、その教育的意義は非常に大きいのである(Cummins, 1983; Cummins, 1984; Hammers & Blanc, 1989; Cummins & Denasi, 1990; Landry and Allard, 1991; Denesi et al., 1993)。

 もう一つ大事な点は、継承語を強めることが高度の現地語獲得の土台となるということである。特に、学齢期の途中で現地語に接触を始めた場合は、継承語の力が現地語習得の上で重要な役割を果たす。接ぎ木のメタファーがよく使われるが、母になる木がしっかりしていれば、接ぎ木もすくすく伸びるが、母木が弱い場合は両方伸び悩む。これはカミンズの相互依存の原則(Linguistic Interdependence Principle)と呼ばれ、いろいろなことばの組み合わせや習得環境で実証されている(Cummins, 1991a; カミンズ・中島1985)。具体的には、4―8歳ぐらいまでに継承語をしっかり育てておけば、現地語も育つし継承語も継続して伸ばせる可能性があるが、4―8歳ぐらいに継承語を失ってしまうと、母語も伸びないし現地語も伸び悩む。この意味で幼児・小学校低学年での継承語教育は、特にその教育的意義が大きい。

 

5. 継承語教育実践上の問題

 つぎに教師、学習者、教育形態、教授法、評価の諸点から、継承語教育がJFL、JSLとどう異なるかについて検討したい。

 

5.1. 教師の問題

JFLは、教員免許を持った教師が学校教育の中で教える教科の一つであるのに対して、JHLは、前述のように学校教育の枠外の課外授業であり、教育専門家不在の現場と言える[iv]。JHL教師はおうおうにして、留学生、父母兄妹、コミュニティーの年長者、一時滞在の母語話者などであり、一貫した教育理念やカリキュラム、教授法などの共有は難しい。また社会的にも認識も低く、報酬も少ないため長続きしないし、職業意識も芽生えない。

JHLでは、語学力があるという意味で1世教師が適任者であると思われがちであるが、実際は現地校で育つ子どもたちと心情的にも、行動パターンにおいても、また価値観においてもずれがあり、そのため実際の授業がうまく行かない場合が多い(佐々木1999; 佐々木2001)。

 

5.2.学習者の問題

継承学習者の問題の一つは、学習に対する動機づけが極度に低いことである(Kondo,1997; Kondo, 1999)。継承語は余計なもの、押し付けられたものという意識を持つ。ブラジルでの調査(被験者16,334名)でも、3世の76.2% は親に言われて(仕方なく)日本語学習をしているという(深沢1995)。また1999年に行われた米国ロスアンジェルスの日系人大会でも、ある3世が「わたしたちは現地校では優秀な生徒で教師にangel(天使)のようだと言われたが、週末の日本語学校では、rebel(反逆児)であった。それは教師が悪かったわけでもないし、教材が悪かったわけでもない。週末にそこに座っていなければならないことに対する反抗であった」と発言したのが記憶に新しい(中島2001: 5)。しかし、これは日系子女に限ったことではなく、同大会のブレット氏の講演の中でも、継承語学習者の特徴として’Students rebel!’(学習者の反抗)が挙げられていた(Brecht & Ingold, 1998; Tse, 1997)。

受け身の学習態度も中学の終わりから高校にかけて、学習仲間に恵まれると積極的な取り組みに変化するようである。私自身がトロント行った前掲の調査(被験者31名)でも、10年間の日本語学校通学の経験を振り返って「日本語学校が好き」と答えたのが60%、その理由としては「友だちがいたから」というのが圧倒的に多かった。また「将来結婚して子どもができたら、日本語学校に行かせますか」という質問に対して90%までが「行かせる」という答えたことからも、日系人としての自覚、日本語継承の大切さを理解しているようであった(中島1988)。

 継承語学習に対する態度が消極的であることの裏には、継承語に対する自信のなさがある。家庭での受け身的な使用が慣用化され、分からなくとも聞き流す習慣がついているために発話が困難、また家庭言語が親の出身地の方言であることが多いため、自分が話す継承語が親しい家族間では通用しても世間一般では通用しないかという危惧が加わる。このため、日本語ばかりでなく他言語(例えばスペイン語など)の継承語教育でも丁寧度による使い分けの教育が必要とされている(Valdes, 1995 ; Douglas, 2000a)[v]

 

5.3. 教育形態

 フィッシュマン (1976) は継承語教育の形態と到達目標をつぎの四つに分類している。

(1)「過渡的バイリンガリズム」(transitional bilingualism)

(2)「読み書き1言語のバイリンガリズム」(monoliterate bilingualism)

(3)「部分的バイリンガリズム」(partial bilingualism)

(4)「全面的バイリンガリズム」(full bilingualism)

 例えば、米国で「過渡的バイリンガル教育(transitional bilingual education)」と呼ばれる、現地語ができるようになるまで教科学習で母語を使用するが、継承語を活用するだけで、継承語そのものを伸ばそうとするものではないというのが(1)の例である。(2)の例は、家庭で継承語を使用するが、読み書きについては自然放置で特別の手立てをしないため、会話はなんとか両方でこなせるが、読み書きは現地語でしかできないというものである。(3)はカナダの継承語プログラムのように、週末の日本語学校で「国語」の教科書を使って勉強するので、ある程度読み書きができるが、他教科の学習はしないため学習言語としての日本語が十分育たないというケースである。(4) はすべての領域で2言語の高度発達を目指す教育であり、イマージョン方式のバイリンガル教育(中島2001b)[vi]や、最近米国で行われている2言語育成を目指した「双方向のバイリンガル教育 (two-way/dual bilingual education)」(Genesee, 1991)、また今回のパネル4などがその例である。

 週末あるいは放課後の課外の継承語教育となると目標を定めるのが難しい。親の態度が現地語重視と継承語重視の間でゆれるのである。現在32カ国語の継承語プログラムが土曜日午前中に一斉に開講されるカナダのオンタリオ州でも、週2時間半、年間80時間の継承語プログラムは主に会話力や文化的アクティビティー(工作、踊り、歌など)が中心で、読み書きまで期待する言語グループは日本語とエストニア語ぐらいだという。オンタリオ州トロント教育局の保護者、教師、校長対象を対象とした調査でも、88パーセント(664中549)までが目標として、つぎの4点をあげており、言語教育が中心とはなっていない (Larter & Cheng, 1986) 。

(1)両親、親戚とのコミュニケーションをすみやかにするため

(2)自らのヘリテッジに誇りを持つため

(3)ヘリテッジ文化・宗教を保持、活性化するため

(4)ことばは子どものときに学ぶ方が効果的である

 歴史的に見て、最も一般的なJHLの教育形態は、上の(3)を目標とする「日本語学校」であったが、最近は、日系人の多く在住する米国のカルフォルニア州などの大学で、大学生を対象とした継承日本語クラスが特設されている[vii]

 

5.4.教授法

 佐々木(2001)は、JHLを「ないないづくし」の教育と言ったが、実際にカリキュラムなし、教科書なし、教材なし、教師研修なしという状況があり、教授法にまで議論が及ばないのが普通である。

 同じ年齢、同じ母語、同じレベルでクラス編成がされる一般の外国語教育と異なり、継承語教育では学習者の年齢差に加えて家庭での使用度が異なるため、語学力もまちまち、しかも言語背景が異なる子どもを一つのクラスで一人の教員が教えなければならない状況がほとんどである。この課題は少数言語の教育一般に共通するものであり、国内の外国人児童生徒を対象としたJSLも決して例外ではない。

 カナダでは、移住者子女が学齢期の子どもの60%以上(例えば、トロント市)をしめるところがあり、こういう課題に対して教授法の面でいろいろな取り組みがなされてきた。例えば、多様性に対処したmulti-level, multi-age, multi-background teachingと呼ばれる教授法(Ullmann, 1994; 鈴木・仲尾, 1998)、マルチレベルに対処した教材(Mollica, 1992)、親との連携を視座に入れた読書プログラム(Tizzard, 1982)、Interactive Homework(Antoniuk, et al., 1998; Epstein, 1993)、Story Telling(Chumak-Horbatsch, 1993)などがその例である。

 米国でも継承語教育の領域として、挙げられているものは(Valdes, 1995)、(1) 現地語の読み書きの力を活用した認知面の4年遅れの挽回、(2) 社会的に適切な言語(prestige variety)の獲得、(3)継承語使用領域の拡大、(4)帰属意識を整理する教育である。今回のパネル2(津田)は上の4点を意識した実践報告である(津田2001)。

 

5.5. 評価

親の不得意な外国語であれば、ちょっとした子どもの努力でもほめてもらえるし、プラスに評価されるが、親の母語となると減点法で見られがちである。ブラジルのある青年は、10歳のときに家で日本語を使うのを止めたと言った。それは母親が自分の日本語の間違いを真似したからだという。ちょっとした親の言動で非常に傷付くのである。またある調査で一人の子どもが、家で「日本語を話さないと怒られる、話すとまた怒られる」と窮状を訴えた。母語話者の目から見れば、未熟さが目立つ継承語であっても親が子どもの努力を前向きに評価することが肝要である。

 継承語の力を客観的に評価することは非常に難しい。母語話者のために作られたテストも妥当性を欠くし、外国語教育用のテストも継承語学習者には適切ではない。2言語を総和と見ようとするBilingual Verbal Ability Test (Munoz-Sandoral et al., 1998)、カナダ日本語教育振興会が開発した会話力テストOBC(カナダ日本語教育振興会2002)や、ミスキュー分析を使った読み能力の分析(Douglas, 2002b)、漢字自由連想テスト(中島2002)などはその試みの一端である。継承語の特徴を踏まえたテストの開発が望まれるところである。

 

おわりに

 以上、JFL、JSLと比較しながら継承語の特徴、継承語教育の意義、課題、実践上の諸問題について概略を述べた。継承語教育は子どもの心の問題、人格形成、知的発達と直結しており、教育的に非常に大事な分野である。子どもが身につけた言語と文化は、その子のパーソナリティーの大事な一部であり、教育現場では、まずそれを容認、その上に新しい言語、知識、文化を築いていくことこそ教育者の任務と言えよう。

 



[i] 継承語はheritage languageの日本語訳である。最近北米ではheritage languageという用語が定着してきたが、オーストラリア、イギリス、ニュージーランドでは’community languages,’ ほかの国では’mother-tongue teaching’などと呼ばれる。その他 ’ethnic,’’minority,’ ’ancestral,’ ’parental,’’home,’’primary,’ ’native,’’vernacular,’’indigenous,’なども使われる。

[ii] この定義は、多言語の国、カナダの国勢調査の質問の一つ’What is the language that you have learned first and that you still understand?’を土台として考えたものである。

[iii] ここでは、対象言語が話される環境でその言語を学習することをJSL、対象言語が話されていない環境で学校教育の中で教科として学ぶ外国語をJFLと呼んだ。

[iv]もともと継承語教育は異言語環境で子育てを余儀なくされた親のやる方ない希求に端を発した実践教育である。経験や知識の蓄積があって始まった教育ではなく、子どもを文盲に終わらせないために手探りでやれるところから始めた体当たりの教育である。サンパウロ大学の鈴木妙教授は「重労働である畑仕事の合間をぬって、子どもたちを文盲で終わらせないため、家庭内・集団内で使われていた日本語の読み書きを親が子に、村の年長者が若者に教えたのが(継承)日本語教育と称されるものなら、ブラジルにおけるそれは今から約80年まえに始まったと言えよう」(1991: 123-4)と言っている。

[v] これまでの調査研究の結果をまとめると、継承学習者の語学力の主な特徴はつぎのようである。

(1)聞く力が高度。

(2) 会話は流暢であるが、説明したり、描写したりという高度な会話力となると、語彙不足が目                              立ち、まとまりがない。

(3) 幼稚語が小学校12年ぐらいまで残る傾向がある。

(4) 読み書きの力が弱い。読みは小学校4年生どまり。

(5) 漢字力は2年生どまり。

(6) 敬語意識・敬語表現が弱い。

(7) 作文が口語的で、「だ体」「です・ます体」の混用がある。

(8) 言語間の明らかな干渉が低学年ほど顕著に現れる(例:「アイスクリームが寒い(冷たい)」                              「今、来るよ(行くよ)」「おばあちゃんがあげた(くれた)」。

[vi] (4) の「全面的バイリンガリズム」の目指した継承語教育の試みは、例えばカナダの中西部の3州では1970年代からなされている。エドモントン市のデルウッド公立小学校では、すでに英語にシフトし、家では英語を話している3世、4世の子どもたちを対象に毎日50%ずつウクライナ語と英語を使用して学習して成果をあげているという。幼稚部から午前は英語、午後はウクライナ語で教科学習をし、ウクライナ語と英語がしっかりした四年生ぐらいからフランス語が加わる。このような継承語を学習言語とした教育がドイツ語、中国語、アラビア語、ヘブル語でもあり、1986年には3州合わせて、7,230人の生徒が登録していたという。(Quadori 1988)

[vii] 例えば、カルフォルニア大学ロスアンジェルス校、サンディエゴ校などで継承語学習者のための日本語コースが特設されているそうである。

 

 

 

 

参考文献

 

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