Book:Internet Koza #Review-UU-12

「インターネット講座」の書評

以下は、1999年11月8日発行、UNIX USER 1999年12月号に掲載された書評です。

BOOK Review: 第89回「インターネット講座」

本書は、単にネットワーク利用をするだけでなく、「ネットワークを介した問題解決力」(3ページ)を身につける目的で書かれている。もちろん、本物の自分の能力にするには、たゆまぬ努力が必要だが、同じ努力を払うならば、よりよい教科書を手に学び始めたい。

ネットワーク社会を形作るもの

序章「ネットワークリテラシー(本書の概要)」から本書は始まる。日ごろ、 ネットワークを利用している人も、ネットワーク・リテラシー(literacy)となると、 心もとないものだ。「リテラシー」、つまり、「読み書き能力」を自分のものにしたと確信できるまでの壁は非常に厚いのだ。

ところで、読み書きの練習では、文字を勉強するのはもちろんだが、 文章を書くトレーニングを繰り返したはずだ。さらに、「日本語練習帳」 (大野晋著、岩波新書)などを読んで、スッキリした文章の組み立て方を 身につけるための努力も重ねる。たぶん、このような位置づけで本書を読めば、 モヤモヤとしたネットワークの世界の仕組みが、少しはスッキリするだろう。

第1章「インターネットでできること」には、明るい未来を感じる。 世界中の多くのコンピュータを互いに接続すれば、 そのつながりが新しい世界を築くのだ。もちろん、新しい世界には、 派手に流れるコマーシャルが描く魅力的な場面がある一方、 いままでになかった危険も生まれている。そして、 ネットワーク生活をより快適に過ごすコツをつかむために、 ネットワーク世界を形作る主要な道具の性質を知ることが重要となる。

まず、コミュニケーションの形式から見ると、 1対1のコミュニケーションを基本とする「電子メール(e-mail)」、 特定グループで意見交換を行う「メーリング・リスト」、 不特定多数で情報交換をする「ネット・ニュース」がある。また、 ネットワーク上でデータを効率よく運ぶ「ファイル転送 (FTP、File Transfer Protocol)」も重要な道具だ。とくに、 プログラムやファイルを取得(ダウンロード)するときに多用する Anonymous FTP(匿名FTP)は必須の道具だろう。

そして、別のコンピュータ(端末)へと接続するtelnet(テルネット) と呼ばれる道具も必要だ。ただし、間違いなく最もおなじみなのは、 Webブラウザを利用したWWW(World Wide Web)だろう。 ハイパー・テキスト(Hyper Text)を効果的に利用して自由な結び付きを提供するリンクが、インターネット時代の情報の広がりを実現している。

続く第2章「電子メールのコミュニケーション」では、 電子メールを利用する技術的条件に加えて、 書く側と読む側の立場から電子メールの特徴を整理している。 さらに、メール利用時の作法にも触れている。たとえば、 激情的な表現(flame)やチェーン・メールを避け、著作権やプライバシーに注意し、 メーリング・リスト独自の投稿マナーなどにも注意する必要があることが、 チェック・リストにまとめてある。なお、ネットワークに十分慣れた人も、 より的確に道具を使い分けることを考えながら、「電子メール、電話、ファクシミリ、 郵便封書、会議などのコミュニケーション手段の特徴を比較する」問題にぜひチャレンジしておこう。

それから、第3章「Webページでの情報収集」では、 Web情報への入り口となる「ポータルサイト」の代表格である検索サービスを、 ディレクトリ系と全文検索系に分けて整理している。

なお、Webページの収集方法が分かったあとは、第4章「Webページの批判的閲覧」 へと進もう。なかなか厳しい項目が並んだリストを手に、 ネチケット(ネットワークのエチケット)のページなどを題材に批判的閲覧の練習を重ねよう。練習を重ねれば重ねるほど、自分の作るWebページをよりよくすることにもつながるはずだ。つまり、批判的閲覧をしっかり身につけることで、他人がWebページに何を求めているかを理解する能力が高められる。

また、この練習は、インターネット・コミュニケーションを特徴付ける自由な情報発信を維持するうえでも欠かせない。なぜなら、校閲過程がないWebページ出版を維持するには、読み手の能力を高めることが不可欠だからだ。

Webページによる情報発信

第5章「Webページの企画・デザイン」から、最も大きな目標となる情報発信が始まる。 まずは、「主題/目的、構成/技術、出所/姿勢、制作予定/担当者、著作権等、優先したい点」からなるWebページ制作企画ワークシートを作成しよう。また、 できる限り検索サービスで見つけられなかった情報提供を考えたWebページの作成を目指したい。そうすれば、多少オーバー気味の目標設定であっても、オリジナリティの高い情報発信をより長い間楽しめるに違いない。

続く、第6章「Webページの制作」は、HTML、HEAD、TITLE、BODY、BR、Hn、コメント、 P、BLOCKQUOTE、PRE、EM、STRONG、CODE、CITE、ADDRESSといったHTML(Hyper Text Markup Language)のタグの解説だ。それから、第7章「Webページのテスト、評価と運用」 には、「明瞭性、一貫性、操作性、読者の期待と内容の合致性」と「領域/範囲、 出所/姿勢、内容、構成、あなたの総合的自己評価」のチェック・シートが含まれる。 また、無事にWebページ公開に至れば、より優れた情報発信を行うためのWebページの保守が、次の大きな課題となる。

ところで、気軽に書かれているコラムもぜひ読んでおこう。たとえば、 188ページにある「ハッカーとクラッカーの違い」などは、何度も何度も繰り返し正しい情報が発信されているにもかかわらず、時にわざと混同するような情報が発信されるため、内容が正確に伝わらない代表例だと気付くかもしれない。

インターネットの基礎技術

第8章以降の技術編の内容自体は、そう難しくないのだが、 インターネットの仕組みを初心者にも分かるように説明するときには役立つだろう。 第8章「インターネットのしくみ」で説明されている、インターネット・アドレスや、 ドメイン名とホスト名の仕組みをだいたい知っていても、正確に説明するとなると大変だろう。たとえば、gTLDに含まれるcom、net、org、edu、gov、mil、int、そして、 firm、shop、web、arts、rec、info、nomなどの分類を表す内容を、正しく説明できるだろうか。また、jpドメインの属性型ドメインであるad、ac、co、ed、go、or、ne、grまではともかく、地域型ドメインの都道府県や政令指定都市、都道府県属性、市町村属性となるとどうだろう。さらに、インターネット・レジストリ、CIDR、TCP/IP、DNS、 RFC、ISOやJISの定めた文字コードを説明するに至ってはかなり難しそうだ。

第9章では「電子メールのしくみ」を扱う。あて先人(To)、用件(Subject)、 カーボン・コピー(Cc)、秘密のカーボンコピー(Bcc)、返信先アドレス(Reply-To) あたりまでのヘッダー説明はよいだろう。しかし、受け取ったメールのヘッダー・フィールドである、戻し先(Return-Path)、到着経路(Received)、メッセージID(Message-ID)、X-で始まる独自フィールド(X-Mailerなど)となると、結構あやふやではないだろうか。ましてや、MIME(Multipurpose Internet Mail Exchange)やuuencode/uudecode、 それにBinHexなどのメールで利用する符号となると、仕組みも知らずに利用している方が多いのではないだろうか。

第10章「World Wide Webのしくみ」は、HTTP(Hyper Text Transfer Protocol) による要求に対して、Webサーバーがどのように返事を返すかの説明だ。 多少難しい約束ごとを知らねばならないが、何パーセントのデータを受信したかが ブラウザに表示される仕組みなどもしっかり理解できる。

ただし、終盤の第11章「JavaScriptを利用したWebページの制作」 と第12章「CGIを利用したWebページの制作」は、 技術レベルも高く手強い内容となるはずだ。もっとも、これらの章では、 CGI(Common Gateway Interface)を利用すれば、ネットワークの向こう側にある Webサーバーの対話的(インタラクティブ)な操作ができ、また、通信販売や オークションのような複雑な処理を実施するためには堅牢な仕組みが必要な雰囲気を感じてもらえば十分という位置付けかもしれない。

よりよいインターネット社会へ!

ところで、「参考文献」や「参考Webページ」(http://www.tomo.gr.jp/Internet/)だが、意外と難しいものがたくさん含まれている。いや、難しいというより、独学では手強すぎるかもしれない。

そして、最後の部分がINDEXとなる。普通は、INDEXにたどり着くまでに書評終了となるのだが、今回は、さらに先にある著者紹介もながめておこう。なぜなら、著者らが京都造形芸術大学や京都芸術デザイン専門学校などで教えていること、つまり、より人間的な面へとインターネットが影響を与えていると実感できるからだ。

インターネット上のコミュニケーションは、 予想以上のスピードで家庭や学校へ浸透しつつある。おそらく、大きな変化にとまどいを覚えている人も多いはずだ。また、新しいコミュニケーション手段の仕組みや作法を体系立てて知りたいと望んでいる人も近くにいるはずだ。このような人に、ぜひ本書を一読するように勧めてほしい。多くの人にとって、「独学でやってきたことに、 自信をつけてもらった」と、水上勉氏が本書への推薦文を送っている点は、心強い言葉になるはずだ。

(浩然之気)


Last Update: 1999.11.8 by Tomoko Yoshida
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