教員の夏休み2025 Vol.1 日本心理臨床学会で発表してきました
9月5・6・7日に神戸国際展示場/神戸コンベンションセンターで開催(対面)された日本心理臨床学会第44回大会において、心理学科の特任講師の武藤翔太先生が発表されました(昨年の発表はこちら)。甲子園風に言うと、2年連続7回目の発表です。甲子園出場校であるのならば、まずまずの常連になってきたと言える回数になってきたのではないでしょうか。
なお余談ですが、プログラム集を見て、発表者名に武藤先生がいることを見つけてくださり、会いに来てくださる方々もいらっしゃったそうです。発表前後はちょっとした同窓会のような雰囲気も醸し出されていたようです。
本大会では昨年に引き続き、多くの院生さん、そして修了生の方々も参加されておりました。彼女たちの感想も交え大会の様子を紹介していきたいと思います。
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<武藤先生(発表者)>
昨年から、臨床心理学とはその関係が直接的には扱われにくい学問を援用した発表をしよう(目標は各学会で3回)、と思い立ち発表をしています。
本大会では「マッチング理論は心理臨床場面でのペア選択に貢献できるか」というタイトルで発表させていただきました。昨年に引き続き、大学の行き帰りの電車の中で読んでいた書籍・論文から着想を得たものです(小ネタですがタイトルは、その題名のカッコよさで有名な某古典SF小説をオマージュしました)。
発表の要点を図式化したものがこちらです。
発表スライドの一部
要約しますと、「どう制度を作れば需給一致が実現するか」(坂井,2013)という学問分野であるマーケットデザインを支えている「マッチング理論」を心理臨床場面に応用したらどうなるか、という思考実験です。
様々なペア選択があるのが心理臨床ですが、試行的に1)ケースの引き継ぎおよび新規担当者の選択、2)実習先の選択、3)スーパーヴァイザー/スーパーヴァイジーの選択の3つを想定し「マッチング理論」を適応した場合にそれらが効率的かつ公平的に機能する選択となりうるかどうかについて試行的な検討を行いました。
Gale, D. によるTop Trading Cycle algorithm(TTCアルゴリズム)(Shapley& Scarf, 1974)や受け入れ保留アルゴリズム(deferred-acceptance algorithm;DAアルゴリズム)(Gale& Shapley, 1962;小島・河田,2024)など、普段は絶対耳にしないであろう概念・用語が飛び交う中、フロアの先生方は興味を持って聞いてくださり(しかも2日目の最終時間帯という疲れがピークに達しつつあるであろう中)、その後のディスカッションでもこれらの新しい概念を積極的に用いるためにはどうしたらいいかと、前向きな議論を行うことができました。
いかんせん、私自身がマーケットデザインの専門家ではないため限界を感じながらの発表ではあったのですが、日本心理臨床学会の多様なテーマを受け入れる風土や自由な発想で心理臨床について語ることができる楽しさがフロアで共有できたように思いました。
発表前後に私の出身大学の先生や以前の勤務先での教え子とも交流ができ、学会ならではの楽しさも満喫できました。さらに、発表会場で8年ぶりくらいに東京の知り合いに再会しました。そして、その人と一緒にいた方が私の集団精神療法関連の事例論文を引用して今大会で発表していたことを報告しに来てくださりました。私の過去の経験が今の臨床で活かされたことを知り、役立てたことが嬉しくなりました。さらにその発表された方が実は私もよく知っている関西圏の職場で働かれていることも知り、この業界の世間の狭さにあらためて驚きました。
発表後はその日参加していた院生さん・修了生の皆様とゆるく集い、ささやかな酒宴を張りました。普段は見ることのできない自由に様々なことを語らっている姿に、心理臨床の未来の明るさも感じた、そんな大会でした。
来年も発表できるか。また行き帰りの電車の中で考えます。

神戸開催の時の風物詩ポートライナー内の広告(左写真)
直前まで別の仕事をしており集合時間20分前になんとか会場に滑り込み、ホッとして一休みをしているときに見上げた発表会場のロビーのシャンデリア(右写真)
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<修了生 Aさん>
私は今回が初めての学会参加だったのですが、ケース検討ではとても活発な議論が行われており、どの意見も頷けるものばかりで聞いているだけでとても勉強になりました。
いろんな視点からケースについて考察を行い、司会の方も上手に意見をまとめておられたので話も分かりやすく、とても面白かったです。
ポスター発表も一度に色々な研究のものを見られるので、自分の興味関心があるものとは違う内容の研究についても知るきっかけになり、また、その分野の面白さに触れることもできました。
学会参加というとすごくハードルが高いような気がしていましたが、実際に参加するとそんなことはなく、気軽に多くの研究やケースに触れることが出来るとてもいい機会だと感じました。
学生の早い時期から参加しておいたら良かったなと少し後悔しています(笑)。
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<修了生Bさん>
今回、私は1日だけの参加で、関心のあるテーマや武藤先生の発表を聞かせていただきました。あまり馴染みのない理論なども出てきましたが、新鮮さがあり、視野が広がるように感じられました。新しい知識が得られることも学会に参加する醍醐味だと思われます。また、質問者と発表者が内容を議論して、発表の内容を広げたり、固めていく雰囲気を感じられるのもとても面白かったです。
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<院生 Cさん>
初めて学会に参加しました。ポスター発表では先生方が研究内容を発表され、それについて意見交換が行われており、新しい出会いや多くの学びを得ることができました。
また、学会場には多くの書籍が並び、立ち見をしながら自分の興味を再確認したり、先生方による紹介を聞いてさらに関心を広げることができました。
武藤先生の発表では、自身の実習での指導者との出会いを振り返りながら考えを深める機会となり、とても充実した学びの時間となりました。
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<院生 Dさん>
今大会のテーマは「心理臨床にとって伝承とは何か―学問的に対話する」であり、研究・教育・支援の現場など、さまざまな立場からの発表を聴くことができ、大変充実した学びの機会となりました。
今回が初めての学会参加でしたが、開催地が関西圏の神戸であったこと、そして院生は入会費が免除されることを知り、急いで入会手続きを済ませて参加しました。
参加の目的のひとつに、本学の武藤翔太先生による発表、「マッチング理論は心理臨床場面でのペア選択に貢献できるか」を拝聴することがありました。先生のご発表は経済学の理論を取り入れた視点が新鮮で、心理臨床の世界においても柔軟な発想の必要性を強く感じました。また、心理学を学び始めた頃からファンであったE先生が司会を務められるセッションの中で、F大学のG先生による発表を拝聴しましたが、医師の臨床能力試験を参考とし、カウンセラーの臨床能力試験を検討されているという内容であり、大変興味深い発表でした。
大規模な大会で、興味をひかれる発表が数多くありましたが、時間の都合ですべてを聴講することは叶いませんでした。その一方で、偶然のご縁から関東でカウンセリングルームを運営されている方と名刺交換をする機会があり、学びだけでなく交流の広がりも得られたのは大きな収穫でした。初めての学会参加は、発見と刺激にあふれた貴重な体験となり、また参加したいと思える良い機会になりました。
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本学では院生向けに学会参加・発表のための奨励費制度があり、昨年に引き続き、多くの院生さんが日本中の臨床家・研究者と直接触れ合える機会を得ることができました。
次年度以降も様々な学会に参加する院生が増えていくこと、そして発表者が出てくることを応援していきたいと思います。
報告者:武藤翔太、広報担当