学長挨拶

令和3年度入学式 式辞                                   2021年4月2日


 

  新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます。新たなノートルダムファミリーとして、皆さんを歓迎いたします。本来なら保護者や来賓の方々を含め、もっと大勢で皆さんのご入学をお祝いするところですが、新型コロナウィルス感染予防の観点から、皆さんと教職員だけのセレモニーとなりました。

 「三密」ということばで、人と人との密接な接触が忌避され、本来なら人間が関わりあう距離の近さを意味するはずの、ソーシャルディスタンスということばが、必要な人との距離を示すことばとして使われるようになって、人と人との分断が心配されるところです。ただし、この人と人との分断、あるいは社会の分断は、COVID-19によるパンデミックに見舞われる以前から、世界中の問題になっていました。気に入らない情報を「フェイクニュース」ときめつけたり、SNS上で自分とは相いれない言論を一方的に糾弾したり、過剰な不信や一方的な思い込みにより、言論の分断、ひいては社会の分断が顕在化していたといえます。そこには、言論や人への深い洞察や、反対に特定の言論を支持する自分自身を客観的、批判的に眺めるまなざしの欠如があります。新型コロナウィルス感染のような、世界を覆う災厄に立ち向かうには、正しい情報の共有と相互信頼、協調、協働が不可欠ですが、それには「思考」と「対話」がかぎになるでしょう。

 「思考」と「対話」ということばで私がすぐ思い浮かべるのは、将棋の感想戦です。「感想戦」とは、勝敗が決まった投了後に、対戦した両者が一緒に対局を振り返って勝因や敗因を分析することを言います。私は将棋のルールもろくに知らない素人ですが、高校生のプロ棋士として注目されていた藤井聡太7段と、対戦者との感想戦の一端を何度かテレビで見て、感心したものでした。皆さんも将棋をしらなくても、皆さんと同世代で将棋のタイトルを2つも手にした、藤井聡太7段の名前は聞いたことがあると思います。藤井棋士より10年も20年も年上のプロ棋士が丁寧な言葉使いで自分の敗因について、藤井棋士に教えを請えば、年若い藤井棋士も勝者となった喜びや興奮のかけらもみせず、再度熟考のうえ、勝負の分かれ目を振り返り、1つひとつ言葉を選びながら答える様は、ある種感動的です。そこにあるのはよりよい将棋を追究したいというふたりの棋士の、真摯な向上心や探求心と、それを相手との対話によって得ようとする、分別ある姿勢です。

 自分で考えることは大切です。ただ自分の狭い考えの殻に閉じこもっていては、偏った結論に至ったり、発展的方向を見出せないこともあるでしょう。対話によって自分の考えと異なる立場や角度からの意見を聞くことは必要ですし、別の見方に出会うことで考えがいっそう深まることが期待できます。逆に、自分では何も考えず最初から迎合的な態度で対話したり、全面否定を前提に向き合って話をしても、建設的な結果は得られません。自分の考えをより良いものにしたいと云う真摯な態度と、人の意見の背景や本当に意図する深い部分を洞察する冷静な思考なくしては、本当の意味での対話にはなりません。本当の対話と思考によって、人は視野を広げ、ひいては自己を成長させるのです。

 そしてこの思考と対話、両者の鍵になるのは「ことば」です。一対一の会話や多人数の話し合いはもちろん、書簡のやり取りによる対話も、話し言葉や文字、すなわちことばがメインの手段になります。さらには自分の心の中での自分との対話ともいえる思考は、そもそもことばそのものといえます。なぜなら人はことばで考えるからです

 入学生の皆さんは、自分が目指す専門性を学び、人間として成長するために大学に入学されました。そしてここ京都ノートルダム女子大学は、教職員と学生の、あるいは学生同士の距離が近い小規模な大学です。対話に事欠かない環境といえるでしょう。さらに全学共通してことばの力をつけることを目標に掲げています。英語をはじめとする外国語の科目はもちろん、日本語の文章表現や話し言葉を訓練する共通教育科目も整備しています。

 これら本学の教育環境や資源を活用し、それぞれの学びへの思いを大事にしながら、将来に向けて自分で考え、授業の内外でキャンパスの様々な人たちとことばを交わして、対話のなかから、学び取り、自分を成長させていってください。 真摯に学びを続ける皆さんを、本学教職員は全力をあげて応援します。

 最後に、私やここに出席している教職員を含め、本学院に集う人たちが大切にしているミッションコミットメントについてお話します。昨日のオリエンテーションで紹介されたと思いますが、4つの動詞からなる、生き方や生活態度の指針です。 「尊ぶ」「対話する」「共感する」「行動する」 これら4つの動詞は、皆さんの生き方や生活を豊かに有意義にしてくれるものであるとともに、分断された社会をつなぎ、連帯して新型コロナウィルスに象徴される災厄や困難に立ち向かわせる、原動力になるものです。私たちの決意として受け継がれている、このミッションコミットメントを皆さんにお伝えして、学長式辞といたします。



 2021年4月2日
 京都ノートルダム女子大学
 学長 中村 久美

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