学長挨拶

令和3年度前期卒業式 式辞                               2021年9月24日


 

  皆さん、ご卒業、おめでとうございます。 保護者の皆様にも、心より御慶び申し上げます。 昨年度に引き続き、新型コロナウィルス感染流行の元での前期卒業式となりました。

 昨年、この場所でパンデミックの最中にイタリアの町から発信された、パオロ・ジョルダーノのエッセイから「日々を数える」という一節を紹介しました。感染者や重症者の数、オンライン授業の回数や緊急事態が明けるまでの日数など、数を数えてばかりの生活は、今だけの辛抱と思っていた当時の予想を超えて、現時点でもまだ続いています。

 それでも、日本ではこの夏、オリンピック、パラリンピックが開催されました。 物議を醸し出したオリンピックでしたが、開会式の入場行進は印象的でした。日本を含め入場行進する各国の代表選手たちの中には、明らかに代表となった国以外の出自の選手が目立ち、もはやエスニシティにおいては、それが偶然のことも、戦略的な場合も含めて、多様でインクルーシブな世界の現実をまざまざとみる思いでした。それは同時に、改めて立場や考えが異なる周りの他者への理解や配慮が、私たちに強く求められることを痛感させるものでした。

 そしてパラリンピック。 当然多様な選手たちが、一様に晴れやかな表情で集い、様々な競技が行われました。 その中に、日本のパラ水泳を引っ張る存在で、今度が4度目のパラリンピック出場となった木村敬一選手もいました。彼は過去3回の大会で銀メダルと銅メダルを計6個獲得しているにも関わらず、今度こそ絶対金メダルをと意気込んで東京パラリンピックに臨んだのでした。2歳のときに視力を失った彼は、金メダルがどういう色なのか見当もつきません。それでも金メダルの持つ唯一無二の価値にこだわり、単身渡米して力と自信を身につけ、4回目のパラリンピックに臨んだのでした。その出場を果たした彼の人生は、一体どれほど過酷で壮絶なものであっただろうかと案じていた私は、出場選手としての彼の紹介記事を読んで、少々思い違いをしていたことを知りました。その記事によると彼は「物心がついた頃にはもう完全に光を失っていた人生で、自分が泳いできた闇の中は、温かくて居心地がよくて、とても幸せな場所だった」と感じているというのです。

 温かく居心地のよい場所を見つけるまでの彼の人生は、確かに過酷なものであったかもしれませんが、パラ水泳という居場所を見つけた彼は、自分に与えられた条件のもとで、能力を磨くことに専心し、そして、今回の東京パラリンピックでついに念願の金メダルを獲得できたのでした。 彼はこうも語っています。「何度だって、この人生を生きたいと思う」と。幸運と祝福に満ちた安楽な人生でなくても、「何度でもこの人生を生きたい」と言い切れる生き方は、どんなにすばらしいことでしょう。

 この夏、パンデミックの最中に開催された2つの国際大会は、その開催をめぐって社会的には様々な議論を巻き起こしましたが、それでも私たちに、世界に存在する多様性への認識と、その中に散りばめられた、ひとつひとつの生き方への共感と敬意の念をもたらしました。

 大学卒業という節目を超えて、より多様性に満ちた社会に出ていかれる皆さんは、多様性を尊重する思慮深さと勇気をもちつつ、唯一無二の自分の人生を、「何度でも生きたい」と思えるように、精いっぱい生きていってください。その前途が希望に満ちたものでありますことを、お祈りしています。



 2021年9月24日
 京都ノートルダム女子大学
 学長 中村 久美

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