学長挨拶

令和2年度 前期卒業式 式辞                             2020年9月24日


 

 卒業生、修了生の皆さん、本日はおめでとうございます。保護者の皆様にも心からお祝いを申し上げます。

 コロナウィルス感染の動向が気になりますこの時期、無事、こうして卒業式、修了式を迎えることができました。思えば皆さんは、社会に出る直前になってこの災厄にまきこまれ、それを潜り抜けて卒業の資格を得られました。非常事態宣言発出以降の期間中、あらゆることをしてはいけない状況のもと、私たちは、閉塞感に押しつぶされるような気持ちを抱えながら、毎日ひたすら数を数えてきたように思います。1日の感染者数を数え、クラスターの数を数え、非常事態が解かれるまでの日数を数え、対応期間Bに入ってからの残りの対面授業の回数を数え、そして皆さんが卒業や修了が確定し卒業式、修了式を迎えるまでの日数を数えてきました。

 同じようなことを、イタリアの作家、パオロ・ジョルダーノが自身のエッセイで書いているのを見つけました。ジョルダーノは物理学を専攻した異色の作家で、新型ウィルスがイタリア北部の6つの州で、大規模な広がりを見せ始めた時期に、ウィルス感染症流行という現象を、数学的アプローチからわかりやすく解いた論文を新聞に寄稿し、大きな反響を呼んだ人です。その後記事の内容を発展させ、非常事態下のイタリアでの日々の生活の想いを綴ったエッセイ『コロナの時代の僕ら』は、日本を含む世界27か国で出版されています。そのエッセイの最終篇の表題が「日々を数える」でした。あとがきで、ジョルダーノは、今後の最も可能性の高いシナリオとして、しばらくは、条件付き日常と警戒が交互する日々が続くだろうと予想しています。

 「条件」付きの「警戒」に覆われる日常生活に最も大切なことは、「倫理」と「思考」(考えること)ではないでしょうか。非常事態宣言後、ステイホームやソーシャルディスタンス、さらには新たな生活様式と、様々な課題をつきつけられた私たちは、それでも黙々とつきつけられたものに従っています。それは単なる無抵抗や服従ではなく、この感染症の脅威から、自分を含め周囲の大切な人を守るため、さらには見知らぬ人や社会に害が及ばないようにとの意識からです。このような社会的責任への自覚、すなわち倫理意識は、まさに「良心の声に忠実に生きる」ことを基本とするカトリックの教えにほかなりません。入学直後から、シスターのお話で、あるいはノートルダム学やカトリック科目の授業で、さらには折々のミサで、「良心の声に忠実に生きる」ための他者への共感や社会正義について、話を聴き、それぞれに感じるものを得られたはずです。皆さんはこのカトリック精神のもとで学ばれたことを、改めて自覚していただきたいと思います。
 そのうえで、条件付き日常と警戒が交互する日々の、そのあとに来る未来のためにも、私たちは数を数えるばかりでなく、個々に問いかけ、考えねばなりません。このような災厄を招き寄せたのは何故か、これを機にやり直すとしたらどうしたらよいか。

 私は、コロナウィルス禍がもたらしたポジティブな面として、私たちそれぞれに、深く考える機会を与えてくれたことを、大事にしたいと考えます。卒業される皆さんは、カトリックの教えとともに、各学科の専門教育を受け、あるいはより深い探求の訓練を受け、社会に出ていかれるのですが、学びの生活はこれで終わりではなく、これからも学び続ける姿勢をもち、社会とのかかわり方や、世界とのつながり方から、自身の生き方に至るまで、これまでとは違う未来の形を求めて、常に自分で考え続けていかれることを期待します。

 「倫理」と「思考」を大切に。それぞれのご活躍をお祈りしています。

 2020年9月24日
 京都ノートルダム女子大学
 学長 中村 久美

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