学長挨拶

2019年度卒業式 式辞                                  2020年3月14日


 

   卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。そして今日までお嬢様方を見守り支えてこられました保護者の皆様にも、心からお祝いを申し上げます。

 私は、本年1月29日付で学長職に就きました。皆さんにとっては、入学式で迎えていただいた芹田健太郎学長、ND祭など在学中の様々な行事や場面で見守ってくださった眞田雅子学長、そして私が、3番目の学長として皆さんをお見送りします。

 カトリック大学である本学は、全教室に十字架が掛けられ、あちこちにマリア様やシスターの、像や肖像画が飾られています。そのような温かく見守られた学園で、皆さんは4年間の学びを積まれました。ただしこれから出ていかれる日本の社会は、若い女性がその能力をふんだんに開花させて、キャリアを形成していくには、まだまだ厳しい社会です。

 昨年、日本でも話題になりましたフィンランドのサンナ・マリン首相は、若干34歳の女性でした。過去にも女性の大統領や首相を輩出しているフィンランドでは、「女性であること」「若いこと」が、リーダーになるうえで何ら障がいにはならないといえます。能力と意欲さえあれば、自己のキャリアを追究できるだけに、フィンランドでは、誰もが早くから自立し、個人の価値観を醸成していきます。
 フィンランドはまた、2018年度、2019年度2年連続して「幸福度ランキング」が世界1位の国でもあります。このランキングは「自分にとって最良の人生から最悪の人生の間を0から10で分けたとき、今、自分はどの段階にいると感じるか」という質問の回答によっています。決して単にハッピーかどうかを聞いているのではありません。
それぞれが自分の価値観にそって思い描く最良の人生や、最悪の人生と比較して、今の人生がどの程度のものかということです。その結果フィンランドでは、「自分の価値観にあった有意義な人生をある程度送れている」という人が多いということです。

 四半世紀前のことになりますが、私は二夏続けて夏休み2か月、スウェーデンのストックホルムで過ごしたことがあります。その際、夕方ストックホルムを出て朝フィンランドのヘルシンキの港に着くフェリーで、フィンランドにも旅行しました。
 当時、職住一体のガーデンシティとして有名だった、タピオラのニュータウンを見に行く目的だったのですが、現地の人たちの日常生活に接する機会の中で、充実した豊かな暮らしぶりが印象に残っています。白夜の夏を楽しむために、みんな夕方4時過ぎには仕事を終え、自転車や車で数十分以内のところにある我が家にいったん帰り、家族と森にベリー摘みに行ったり、バーベキューを楽しんだりするのですが、一方でその夕方からの時間に、大学や市が開講する教養講座や、スキルアップのための講習会などに思い思いに通っているのです。なんと充実したライフタイルだろうと感心したものでした。

 皆さんは単にハッピーかどうかではない、自分の価値観にあった有意義な人生というものを考えたことがありますか。確かに個々の有意義な人生を支える教育や福祉など、社会保障の制度やしくみの点で、フィンランドと同等のものは、今の日本には望めない現実がありますが、それでも、まずは自分の価値観を確立して、主体的に有意義な人生を追究しようとする意識を持たないことには、有意義な人生の第1歩は始まりません。先ほどの幸福度ランキング、日本はというと、2018年度54位、2019年度58位です。このランキングの差は、社会のしくみの違いだけでなく、若いころからの「有意義な人生」への主体的な向き合い方の違いをも、意味するものではないかと思います。

 皆さんは本学で、社会人、職業人として必要な素養や専門性を養い、多くの方が免許や資格を取得されました。ただし、皆さんにとっての学びは、これで終わりということではありません。自分の価値観を確立し、有意義な人生を実現していくうえでは、自分を大切に、常に自分自身を成長させていく、という意識をこれからも持つことが必要です。

 フィンランドのような社会全体としての「女性の活躍」は、まず、常に自身の向上を目指す女性ひとりひとりが、個性豊かな職業人として地道にキャリアを築くことから始まります。そしてそれが全体として、多様な可能性をもった掛け替えのない個々の職業人の集まりであることを、周囲の男性同僚たち、ひいては社会全体に認めさせること、その積み重ねによってでしか、真の女性活躍社会への道は進まないでしょう。

 ただし、皆さんすべてに、社会で先頭に立って戦ってくださいと、叱咤激励するわけではありません。常に学び続ける気持ちをもって、でもあくまで自分らしくでいいのです。そしてもしキャリアの途中で組織の、チームの、あるいは地域のリーダーになる機会がめぐってきたら、迷わず勇気を出してそのチャンスを受け入れてください。そのときに思い出していただきたいのが、本学が大事に伝え続けているミッションコミットメントです。「尊ぶ」「対話する」「共感する」「行動する」の4つの動詞は、これからの皆さんの人生の道標となって、進むべき道を照らしてくれるでしょう。

 最後になりましたが、一連の感染病対策により、皆さんの門出を従来通りにお祝いすることができなかったことを、本当に残念で申し訳なく思います。ガウンとキャップにつきましては、また別に着ていただく機会をつくりたいと思います。

 今回のような自分の力が及ばないところでの思わぬ障害や、もっと深刻な理不尽な状況に突き当たることが、これからの人生で多かれ少なかれあるでしょう。そのようなときにも、自分を大切に、自分を成長させていくという気持ちを持ち続けてください。その際、このミッションコミットメントが指し示すことが、皆さんの支えになることを願っています。このことを申し添えて、本日の私の式辞とさせていただきます。

 皆さん、どうかお幸せに。



 2020年3月14日
 京都ノートルダム女子大学
 学長 中村 久美

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