学長挨拶

2022年度 入学式 式辞                              2022年4月2日


 

 皆さん、ご入学おめでとうございます。
 ご家族の皆様にも、心より御慶び申し上げます。
 新型コロナウィルスの脅威はまだくすぶり続ける一方、世界では戦争をしかけられた国の惨状は目を覆うばかりで、それを見守る国々も様々な影響を受け、人々の生活に影をさします。それでも日本では、新たな出発の春がやってきました。

 皆さんもいろいろな思いを胸に、この入学式に臨まれていることでしょう。コロナ禍の制約の多かった高校生活を引きずったまま、なんとなくこの席に座っている方もおられるかもしれません。ただし皆さんは、すでに昨日から大人であると法的に認められています。大人としてひとつの節目を迎えたからには、本日から始まる大学生活を意義深いものにするため、気持ちを切り替えなければなりません

 大学で学ぶ目的は、社会活動に必要な知識や能力、資格を身につけることですが、それ以上に、よりよく生きていくうえでの根源的な力をつけることです。失敗や挫折を経験しても、豊かに生きていく意欲と勇気を自分でひねりだす力です。

 そのような力を身につけるためにはどうしたらよいか。よく言われることは教養を磨くことです。とりわけ哲学や思想など、古典の名著を読めとよく言われます。確かに大事なことです。あるいは本学が重視している人との対話、先生や事務の人との、また学生同士の対話から、力のヒントを得ること、これも大事です。ただし、これら読書や対話から学ぶうえでは、感じ取ること、感受する力が重要になります。そして力の源として感受するのであれば、書物や人のことばからだけでなく、目に入る、あるいは耳にする、あらゆるものから、感受できるものです。

 私は毎朝、通勤電車の終点、出町柳から30分ほど歩いて大学に来ます。途中、下鴨神社の糺の森を通ります。神が司る深遠な森は、新緑や紅葉、雪景色と四季折々に表情を変え、美しくすがすがしいものです。2月から3月にかけて、晴天の早朝、幾種類もの鳥の声が聞こえ、穏やかな日の光が、冬枯れの落葉樹の枝の間から地面に届き、地面に光と影の縞模様が描かれます。それを見ながら歩くとき、私はたいてい2つの感覚に囚われます。1つは鳥の声や日の光、大木や御手洗川のせせらぎなど、春を待つすべての自然や大地が祝福しているような感覚です。山積する問題を抱えて欝々とした気分で歩き出すことが多いのですが、この自然の祝福に包まれると、いつもと変わらずこの景色を見ながら歩いていけることに、喜びに似た感情を抱きます。もうひとつは、自然への畏敬の念です。どんなに厳しい冬でも悪天候が続いても、いつもの早春のように森の手前で鶯が鳴き、下草の間から見える川面が輝き、森のはずれの枝垂れ桜が花開く、自然の揺るぎない強さに対し、その中を懸命に歩く自分が、いかに小さく頼りない存在であるかを痛感します。自分の役割や能力の限界を自覚するとともに、それならなおさらもっと学ばなければいけないという思いを同時にもつのです。森を抜けるまでわずか数分の間ですが、自然から感受した様々な感覚や湧きあがる感情から、私はやるべき事や私としてのあり方をいろいろ考え、前を向きます。

 豊かな人生を獲得する力は、見たり読んだり聴いたりしただけで、身につくものではありません。見たり読んだり聴いたりしたものから感じ取って、その感じ取ったものから自分で考え育てていくものです。

 先生の講義やゼミで交わされることば、キャンパスでの友人との語らい、図書館書庫のひんやりとした空気と開いた頁の文字、あるいは実習やフィールドワークでの様々な出会いや経験、さらには四季折々の京都の自然や寺院のたたずまい、それらから感じ取ったことを自分で育てて、生きる力を養ってください。それを4年間積み重ねれば、あなたはきっと豊かな人生を切り開く大きな力をもって社会に出ていけるはずです。

 今様々な気持ちを抱いてここに座っておられる皆さんは、縁あって京都、北山の地にある、小規模のカトリック系女子大学に集いました。建学の精神は「徳と知」。それを体現していくための行動指針「尊ぶ」「対話する」「共感する」「行動する」この4つの動詞で表すミッションコミットメントを大切にしています。ここを、そして今日を出発点にして、迎える教職員や在校生とともに、互いに関わりあいながら共に学んでいきましょう。そのような皆さんを、私たち教職員は応援しています

2022年4月2日
京都ノートルダム女子大学
学長 中村 久美

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