ことばの研究会 -開催報告-
2015年度 研究会
2015年度 第1回
日時 | 2016年3月9日(水) 14:00~15:10 |
場所 | 京都ノートルダム女子大学 ユージニア館3階アクティブラーニングスペース |
【発表プログラム】
William Saroyan の短編をしみじみ読む−”The Cat” における移民表象 人間文化学部英語英文学科 講師 大川 淳
※発表者の所属・職名は研究会実施時点のものです



研究発表では、William Saroyanの短編小説“The Cat”について、純朴な労働者と無垢な子どもとの交流を通じて、階級間や人種間における差別のない世界が描かれている、とする先行研究に対する批判的な解釈が提示されました。
具体的には、小説の語りの人称、「匂い」の描写と語りのレトリック、登場人物の設定、アルメニア系移民二世であるSaroyanの伝記的背景、当時のアメリカ合衆国における移民の状況などを手掛かりに、この短いストーリーを、移民の希望と絶望の記憶にまつわる物語として再考することができることを指摘されました。
発表に続いて、参加者からサンフランシスコにおける移民の状況、どうして「猫」なのか?、登場人物の子どもの名前について等の質問が出され、関連して意見交換が行われました。
2013年度 研究会
2013年度 第1回
日時 | 2013年10月11日(金) 17:00~18:10 |
場所 | 京都ノートルダム女子大学 マリア館1階ガイスラーホール |
【発表プログラム】
境界性人格障害の実存様態についての解釈学的現象学による研究―作家、太宰治を症例として― 心理学部 准教授 田中 誉樹
※発表者の所属・職名は研究会実施時点のものです


研究発表では、まず本研究は、境界性人格障害 Borderline Personality Disorder(以下BPD)を「病む」ということが、当事者本人にとって、どのように経験されどのような個人的意味を持つ経験であるかを明らかにすることを、目的としていることが述べられました。その上で、解釈学的現象学Interpretative Phenomenological Analysis(以下IPA)を用いた一事例研究によって、量的研究では見えにくい当事者固有の意味世界を理解できること、これにより心理臨床家がBPD患者の実存的様態(存在の仕方)を把握し理解できる、という意義があることが示されました。
次に、IPAを用いた先行研究が紹介されました。先行研究のうち、カルロ・ぺルフェッティらによる複合骨折し腕神経を損傷した患者のリハビリテーションプロセスに関する事例研究について特に詳しく説明されました。
続いて、今日の基準ではBPDと診断される可能性が高い太宰治を、IPAを用いて分析した内容が紹介されました。分析方法として、昭和10年~11年に太宰が送った書簡33通から頻出する単語や表現、独特の言い回しの「言葉」をIPAの原理に従って抽出、コード化しカテゴリーに分類する手法を取ったことが紹介されました。
最後に、分析の結果見えてきた太宰にとっての「病むこと」の本質的意味についての考察が述べられました。太宰にとって「書くこと」は、「読むこと」「語ること」と同様、それと引き換えに「母性愛」や「自己の存在への承認」を得ることのできる重要な実存的を持つ行為であったことが強調されました。
発表後の質疑応答では、参加者から太宰治を分析対象とした理由や、すでに亡くなった作家である太宰治を分析の対象とすることについての質問がなされました。これらの質問に対して、田中先生から、太宰については手紙の他、傍証資料など、分析に必要な生のテクストが豊富であること、既に亡くなっている人の場合でも、本人が書いたテクストそのものと、研究者が比喩的な意味で「対話」することによって、ある程度の検証が可能であるとの回答がありました。ただし、指摘された点については、今後も検討していきたいとのことでした。今回は大学院生の参加者が多く、教員の研究成果が大学院生にも共有される有益な機会となりました。
2013年度 第2回
日時 | 2014年1月22日(水) 17:00~18:10 |
場所 | 京都ノートルダム女子大学 マリア館1階ガイスラーホール |
【発表プログラム】
統語部門と意味部門とのインターフェースに関わる諸問題 人間文化学部英語英文学科 講師 杉村 美奈
※発表者の所属・職名は研究会実施時点のものです


研究発表では、私達が言語について無意識に持っている知識が、例を挙げて示されました。また、意味/構造の曖昧性について、例文を挙げて紹介され、参加者は品詞と動詞の相互作用によって文の意味が変化するかどうか、意味を持つ文として許容できるかどうかを考えました。最後に、今後の研究の展望について述べられました。
発表後は参加者から、文の意味が理解できるかを判断する際の基準や条件についての質問が出され、発表者との意見交換が行われました。また、条文の解釈は一通りしか許されないとの、法律の研究者の立場からの意見も出されました。参加者の専門分野は様々でしたが、それぞれが無意識に持っている言語知識について改めて考える機会となりました。
2013年度 第3回
日時 | 2014年3月7日(金) 15:00~16:10 |
場所 | 京都ノートルダム女子大学 マリア館1階ガイスラーホール |
【発表プログラム】
社会認知としてのコミュニケーション能力研究 人間文化学部英語英文学科 准教授 小山 哲春
※発表者の所属・職名は研究会実施時点のものです


この研究発表では、近年の研究により、コミュニケーション能力には従来言われてきたような記号および記号体系の理解だけではなく、人間の持つ根源的な社会的認知機構が深く関わることが明らかになりつつあることが、子どもの指さしに代表される初期コミュニケーションの発達、ミラーニューロン研究、ToMM(こころの理論)などに言及しつつ示されました。
発表後は、言語使用における認知フレームの共有、認知フレームの個人差や文化間の差異と共通性、言語理解と言語習得の前段階で獲得するコミュニケーション能力との関係などについて、質問者と発表者の間で質疑応答および意見交換が行われました。
2010年度 研究会
2010年度 第1回
日時 | 2010年5月27日(木) 16:30~18:00 |
場所 | 京都ノートルダム女子大学 マリア館1階ガイスラーホール |
【発表プログラム】
幼児期における私的言語と心の理解の発達―言語発達と心の理解との関係を探る 心理学部 教授 高井 直美
※発表者の所属・職名は研究会実施時点のものです


当日は、本学の高井直美教授より上記のテーマで研究の話題が提供され、出席した約15名の教員との意見交換も活発に行われました。高井教授は最後に「言語は、獲得時から、他者の心の理解と密接に関係していると思われる。そして子どもは、言語により、他者の心を詳細に理解したり、子ども自身の思考を発達させると考えられる。このような発達には個人差があるだろう。また、特定の障がいによって、他者や自分の心の理解と結びつかないまま、言語が発達する場合もあると考えられる。」と発表をまとめられました。
2010年度 第2回
日時 | 2010年6月25日(金) 16:30~18:00 |
場所 | 京都ノートルダム女子大学 マリア館1階ガイスラーホール |
【発表プログラム】
バフチンのポリセミーについて 人間文化学部人間文化学科 教授 服部 昭郎
※発表者の所属・職名は研究会実施時点のものです


この研究発表では、小説の多言語性を表すヘテログロシアという考えがさらに文化の様式についての理論モデルに発展して、いわゆるカーニヴァル論を生み出したのではないかと捉え、その枠組みを、スコットランド啓蒙の時代に古都エディンバラで活躍した銅版画肖像画家ジョン・ケイの作品を例に検証された成果が発表されました。
その後、出席した約14名の教職員と学生から多数の質問が寄せられ、活発な質疑応答が行われました。
2010年度 第3回
日時 | 2010年12月9日(木) 16:45~18:00 |
場所 | 京都ノートルダム女子大学 ユージニア館第2会議室 |
【発表プログラム】
チョムスキーの魂胆 人間文化学部英語英文学科 教授 新井 康友
※発表者の所属・職名は研究会実施時点のものです


当日は本学教員と院生12名が参加し、熱心に耳を傾けていました。新井教授より、以下の概要の通り、話題提供いただきました。
「1955年に始まった生成文法は、ノーム・チョムスキー(MIT)教授によって今でもリードされている。チョムスキー教授はそれまでのアメリカ構造主義言語学による句構造文法(Phrase Structure Grammar)に対し、変換規則(Transformational Rules)が必要であるという主張から、1965年に標準理論を提唱し、変換規則を含んだ文法体系を打ち出した。そして変換規則の力をどのように制限したら良いかを検討した結果、1981年に原理とパラメータ(Principles and Parameters)の理論に至ったのである。しかし突然、1995年に、全く新しい考えを打ち出し、今日では変換規則が文法から消えてしまっている。いったいチョムスキーの魂胆は何なのか。」
2010年度 第4回
日時 | 2011年1月13日(木) 16:40~17:45 |
場所 | 京都ノートルダム女子大学 ユージニア館第2会議室 |
【発表プログラム】
シグナリング―コミュニケーションの原始的形態:ゲーム理論的アプローチ 心理学部 教授 藪内 稔
※発表者の所属・職名は研究会実施時点のものです


今回の研究発表は、ゲーム理論的コミュニケーション研究を、相互行為者の発話意図、言語慣習、コミュニケーション展開過程に焦点を置いたもので、コミュニケーションの原始的形態である「シグナル行動」について、ゲーム理論的に理論化するアプローチを原点として考察が行われたものです。「ゲーム理論」は、相互作用状況下で観察される意志決定者行動の諸現象を理解するための有用な数学的理論で、人は整合的な目標を追及する合理的存在であって、他者の行動についての知識や予測を考慮の上で方策や自己の行動を決定するということを前提としています。
この中で、言語慣習の研究にゲーム理論的視点と分析手法を導入した哲学者David K. Lewisの「シグナリングゲーム」というゲーム理論が紹介され、シグナリングゲームが「状態」と「行為」との調整課題に基づくものであり、2つの状態の世界とそれに対応する2つの行為からなる利得構造をもつ「状態・行為調整課題」とよばれるものであることについて説明が行われました。
当日は、約20名の教職員と学生が出席し、研究発表の後も熱心な質疑応答が行われました。
2009年度 研究会
2009年度 第1回
日時 | 2010年3月3日(水) 16:30~18:00 |
場所 | 京都ノートルダム女子大学 マリア館1階ガイスラーホール |
【発表プログラム】
1.ジェロントロジー(老年学)とは何か 生活福祉文化学部 准教授 加藤 佐千子
2.友人関係のコミュニケーション・ルールについて 生活福祉文化学部 講師 畠山 寛
※発表者の所属・職名は研究会実施時点のものです



当日は、学長統括プロジェクトが取り組んでいる「ジェロントロジー」と「ことばの研究会」から話題を提供していただき、約50名の教職員が参加し、本学の研究発表者と教職員との間で意見交換を行いました。
藪内学長挨拶に続き、まず、加藤佐千子准教授(生活福祉文化学部)が、「ジェロントロジー(老年学)とは何か」というタイトルで、ジェロントロジーの定義、研究史、日本の老年学研究の現況などについて包括的な発表をされました。
引き続き言語共同研究に移り、畠山寛講師(生活福祉文化学部)により、「友人関係のコミュニケーション・ルールについて」というタイトルで、学生の友人間コミュニケーションにおける規範意識に関する発表が行われました。
その後、この二つのテーマについてそれぞれ参加者から質問が出され、その質問についてまた議論するなど、参加者にとって学ぶところが多い研究会でした。