研究代表者 桐野 由美子
研究課題名 子どもの虐待防止における非政府組織(NGO)の役割に関する国際比較調査研究
種類 基盤(B)
研究期間 2001〜2003年
研究概要(2001年度) 3年間プロジェクトの1年目として、香港における虐待防止関連非政府組織(NGO)の役割に関する情報収集ならびに聞き取り調査(対象機関:防止虐待児童会、ユナイテッドクリスチャン、ホスピタル、カリタス、ファミリーサービス、社会福祉局/家庭児童保護サービスユニット、香港理工大学応用社会科学部、矯正サービス局)を実施した。
香港は1997年に独自の自治権を持つ「中華人民共和国香港特別行政区」として中国に返還されたが、現在でも欧米型、特に英国のソーシャルワークを基盤とした児童保護サービスが提供されている。香港には多種多様の児童虐待防止関連民間団体があり、それらの多くは20年以上の長い歴史を持っている。
香港の民間団体は児童虐待防止の4分野である予防・調査・介入・治療の全分野において行政と下請け契約を結び国の補助金を受理し、行政との連携を効果的にとりながら活躍している。
香港の主な特色として第1に、1つ既存する民間団体が児童虐待通告の調査および軽度から中度の虐待ケースの介入を行なっている点があげられる。ただし民間団体は被虐待児を家庭外に措置する権限を持っていないため、あくまで通告対象家族の同意を得たうえでのサービス提供を実施している。
第2の特色として、香港の各民間団体の専門性が高い評価を得ていることがあげられる。例えぱ「児童虐待予防」分野では、民間団体による家庭訪問、ドロップインサービスなど、「治療プログラム」では経験豊かなソーシャルワーカーによるカウンセリング、グループワーク実施などが実施されている。
第3に香港では、重度の身体的虐待や性的虐待対象の多職種チームによるケースカンファレンスに、行政機関(社会福祉局・警察)とともに、民間団体(病院も含む)のスタッフが必ず参加してケースの処遇判定を行なうシステムが完備されていることが特色である。
これらの情報を元に今後の日本の民間団体の役割を検討した。
 
研究概要(2002年度) 3年にわたる本研究の第2年目の本年度は第1に、本年度実施のアメリカにおける児童虐待防止非政府組織(NGO)ならびにその関連政府組織(GO)等を対象とする聞き取り調査の準備として関連資料の収集にあたった。
第2に、アメリカ聞き取り調査を実施した。NGOとGOの連携状況に関する聞き取り調査の実施地はワシントンDC、メリーランド州、ノースカロライナ州、フロリダ州、ニュージャージー州、ワシントン州、カリフォルニア州であった。
アメリカの児童虐待防止活動におけるNGOの活動の最も大きな特徴として、児童虐待の調査・子どもの家庭外措置を含む要養護児童の処遇の計画ならびにその実施の任務を持つ全ての児童保護局は主に、子どものパーマネンシープランニングに関するケースマネジメントに携わり、児童虐待第一次・第二次・第3次予防活動の殆どを、契約を交わしたNGOの諸機関に任せていることがあげられる。これは日本の介護福祉分野のケアマネジメントのシステムと類似すると言っても過言ではない。
このようにアメリカのNGOはGOの補助的役割をする立場とは程遠く、児童虐待予防の確固たる中枢専門機関としての責任を担っている。また、各NGO活動は毎年厳密に評価され、成果をあげているNGOのみが次年度のGOとの契約を交わすことが可能になる。ゆえに、その競争世界で生存するためにも、子どもと家族へ提供するサービスの質の向上を目標に、スタッフの研修・効果測定等に相当力を入れていることが聞き取り調査の結果に現れた。
特に、今回の聞き取り調査の対象となったアニーケーシー財団、法人ペアレントアナニマス(匿名の親)、ナショナルエクスチェンジ財団等は、全国に支部を置いて児童虐待防止活動に貢献する大規模な事業を行っている。
最後に本研究第2年目として、ISPCAN(世界児童虐待防止学術研究会)会員の中から抽出した全世界のNGOおよびGOを対象に質問紙調査を実施した。回収率が低かったこともあり、第3年度の研究では、今年度の質問紙調査のフォローアップが必要である。

 
研究概要(2003年度) 3年にわたる本研究の第3年目の本年度では第1に、イギリスにおける児童虐待防止非政府組織(NGO)ならびにその関連政府組織(GO)を対象とする聞き取り調査を実施した。その内訳は民間機関15件、行政機関8件であったが、3年間全聞き取り調査対象(米国・香港・イギリス)の総合計としては民間機関42件、行政機関21件に至った。
聞き取り調査結果として、(1)イギリスでは現在、ビクトリア・クリンビエ虐待死亡事件をきっかけに法律・ガイドラインを改正することにより地域、特に教育機関との連携強化に努めていること、(2)米国と比べて、イギリスにおける虐待防止活動の民間委託の割合は低いものであり、行政中心の活動が中心であること、(3)米国・日本では見られない点として、イギリスでは香港と同様に、限られたケース対象ではあるが、一民間機関(NSPCC)に虐待調査の権限を与えていること、などがあげられる。
第2に、平成14年度の質問紙調査結果を解析し、各国のNGOの活動状況を比較検討した。質問紙は各国1箇所ずつ54カ国に送付し、アジアおよび欧米を中心に14カ国からの回答を得た(回収率25.9%)。結果は以下の3点にまとめられる。
1.NGO活動に関する自己評価は「高」・「中」・「低」に大別できる。アジア諸国は「中」、いわゆる虐待防止先進国は「低」が多い。
2.虐待防止諸活動とNGOの活動分野の広がりをそれぞれ2つに分け、2×2の4分類とした。うち、役割分化が進みNGO活動分野も広いのがオーストラリア、ニュージーランドなどで、役割分化は進んでいるがNGOの活動分野は限定的なのは米国である、などの結果が出た。
3.今後の発展が望まれる虐待防止活動分野と、それへのNGOの貢献が望まれる分野について尋ねた。その結果を分類すると、「今後の発展が望まれる分野は多く、NGOの貢献への期待度は小さい」国が最も多かった。また、「今後の発展が望まれる分野とNGOの貢献への期待分野がずれている」国としてイギリス、オーストラリアが析出された。
 
研究成果(2004年度) 本研究の目的は児童虐待防止に関与する海外の非政府組織(NGOと)と、その行政機関(GO)との連携に関する実態を把握・分析し、その結果をもとに日本の現状と照らし合わせながら、日本の子どもの虐待防止関連NGOの今後の課題と方向性を検討することにあった。
そのため3年間にわたる本研究では第1に資料収集ならびに文献研究を行い、第2に、児童虐待防止先進国である米国・英国、そして英国の影響を受けて早くから虐待防止に努めている香港で、第1次・第2次・第3次予防を担っている代表的組織(38件のNGO・22件のGO)を訪問し、その背景・活動状況・職員構成/財政・行政機関との連携・ボランティアリズムと専門性などについて聞き取りり調査を行った。また第3に、世界各国(N=54)におけるNGOによる児童虐待防止活動の一般的傾向を明らかにするため、質問調査を実施した。
これらの調査の結果、(1)文化・歴史・地域性・法的背景の相違に関わらず、各NGOは第1・第2・第3予防のうち2つ以上の分野で自らの秀でた専門性を発揮し、それぞれの子どもと家族のニーズに合った個別のサービスを提供していること、(2)虐待防止先進国の場合、「NGOとGOのパートナーシップ」は我が国のそれとは異なり、NGOはGOから相当な額の補助金を受理した上で、その契約に基づいた委託事業を行っていること、(3)GOは、効果測定の結果でサービス提供の成果があったNGOのみと契約の更新をする傾向にあること、(4)例外はあるものの、概してどの国の児童保護システムをみても、措置権を持つGOが虐待ケースの調査/介入を担っており、NGOはGOによるケースマネジメントのもとに、調査/介入以外の分野でサービス提供を行っていること、などが明らかになった。
本研究の最後に日本の児童虐待防止関連政策に関して、(1)国・都道府県・市町村レベルでの補金を伴ったNGOとのパートナーシップの再構築、(2)学校基盤型の第1次予防の強化、などを盛り込んだ提言を行った。