こども教育学科

どの花もそれぞれのねがいがあってさく

2023-03-27
学科のまなび

 「あなたが大切にしているものを一つ持参して、それについて話をしてください。それが持参できないようなものであれば、写真を撮ってきて、それを見せながら話をしてください」。

 私は、新学期の初めなどに自己紹介をしてもらうとき、このようにお願いすることがあります。大切なものやその写真を示しながら話してもらうようにすると、その場の緊張感がほぐれて、和やかな雰囲気が生まれます。

 もちろん、私も同じように自己紹介をします。写真は、以前、そのために撮ったものです。若い方はご存じないかもしれませんが、「お葬式」「マルサの女」といった日本映画史に残る傑作を撮った映画監督の伊丹十三(いたみ・じゅうぞう 1933-1997)が書いた色紙です。

 どの花もそれぞれのねがいがあってさく

伊丹は、このことばがとても好きだったようで、色紙を頼まれるとよく書いたそうです。

 映画は、監督一人では作れません。たくさんの俳優が必要ですし、プロデューサー、脚本、撮影、美術、音楽、照明、編集、録音、衣装、メイク、宣伝など、さまざまな技術とアイデアをもった人たちが必要です。そうした人たちがそれぞれの持てる力を振り絞って協同することをとおして、一本の映画が生み出されます。その意味で、映画づくりは、さまざまな楽器の響き合いから生み出されるオーケストラに似ています。映画監督は、オーケストラの指揮者のような仕事です。

 伊丹は、「どの花もそれぞれのねがいがあってさく」ということばを書きながら、一緒に映画をつくっていく一人ひとりのスタッフにそれぞれのねがいがあるということ、どのスタッフにもそれを大切にしながら最高の仕事をしてもらうのが監督の務めだということを、自分自身に言い聞かせていたのかもしれません。

 私はこの大学の教師で、日々、学生や教職員と向き合いながら仕事をしていますが、時おり、伊丹の書いたこの色紙を眺めては、一人ひとりの学生、一人ひとりの教職員に、その人なりのねがいがあるということを思い返すようにしています。

田中 裕喜

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